人件費ミックス
筆者がコンサルタントとして駆け出しだった頃、ご支援先であった企業の社長の言葉が今でも印象に残っており、自身のコンサルティングポリシーの1つになっています。それは、
「生き金」にする
です。
「生き金」とは、新たな価値を生み出すお金やその使い方を言います。
対義語は「死に金」で、あまり意味のない、無駄なお金やその使い方です。
価値を生むなら100万円でも1000万円でも使う。無駄になるなら1円たりとも使いたくない。中小企業(に限りませんが)の経営においては、非常に大切な考え方です。
別の表現をするなら、投資(生き金)か費用(死に金)か、でしょうか。損益計算書は全て「費用」で表現しますが、できる限り「投資」として捉えることが重要だと考えています。
前振りはこれくらいにして、今回の本題「人件費ミックス」です。
「人件費ミックス」は、筆者の造語です。調べても出てきませんので悪しからず。
語源は、「粗利ミックス」という言葉で、最寄品(日常的に買う商品)中心の店舗型小売業では戦略上重要な考え方です。
例えば我々は、安売りチラシを見て店に行きます。店側からすると、チラシの商品は薄利ですので、しっかりと利益が確保できる商品を一緒に買ってもらう必要があります。これによりトータルで一定の利益率を確保しようという施策が粗利ミックスです。
人件費についても同様の施策が必要だと考えています。
許容できる人件費が限られる中、出すべき所には出し、抑える所は抑え、トータルで考えて人件費を有効活用する(生き金にする)ことは非常に重要であり、昨今の賃上げブーム等による人件費の上昇を踏まえると、今こそ見直しの時です。
(前回のコラムも御覧ください→https://jinji-seido.jp/column/3039/)
例えば、人件費としての原資10,000円、5人の社員にどう配分するでしょうか。
・5人に2,000円ずつ
・1人に5,000円、1人に2,000円、3人に1,000円ずつ
・1人に10,000円
選択肢は色々とありますが、どれが正解かではなく、どれが今の自社にとって効果的なのか、を考えるべきでしょう。
人件費ミックスの一般的な例を具体的に見ていきましょう。
1.家族手当を廃止し、その原資を基本給や役職手当に充当する
まずは超王道です。
社員の生活環境ではなく仕事ぶりに賃金を配分するという考え方は、人事制度改定時によく検討されるテーマです。仕事ぶりに対する配分が増えれば、必然と優秀な社員に充当することができ、人件費が「生き金」になると言えるでしょう。
ただし一般的に、原資としては大きな金額でない割に、廃止時のマイナスのインパクトが大きいため、有効活用とならない可能性もあります。
2.賞与の一部を月給に繰り入れる
状況に該当するなら王道です。
好業績が続き、それを賞与で還元し続けてきた企業は、定期賞与や決算賞与が大きな金額になっていることがあります。変動費である賞与を固定費に変えても問題ない状況であれば、月給として支給しておく方が採用活動等に寄与しやすく、「生き金」にできると言えます。
賞与の分割前払いになる点、残業基礎額が増える点で注意が必要です。
3.限定社員制度を導入する
やや運用難度が高いものの、検討してみる価値はあります。
例えば「勤務地限定社員制度」。一般的には、基本給の一定割合を減額する代わりに転勤(一般的には転居を伴う異動)を免除することが多いですが、社員の勤務志向と、会社の意図(人件費の抑制)が合致すれば、Win-Winの関係となるため、非常に有効に機能します。
勤務地限定社員制度の他に、「職種限定社員制度」や、「時間限定社員制度」などがあります。
4.ジョブ型の人事制度に変更する
理想としてはこれを考えたいところです。
社員の年齢・勤続などに対して支給している賃金がある場合、それを社員の仕事ぶり(成果、役割、職務 等)に対して支給できるよう人事制度を変更します。
ジョブ型については、こちらもご参照ください。
→https://jinji-seido.jp/column/2076/
一般的なジョブ型人事制度(ジョブディスクリプションの作成、市場価値を加味した職務別賃金 等)は運用の難易度が非常に高いですが、年功を打破すべく、評価基準を「人」基準から「仕事」基準に変更し、評価結果に応じて処遇のメリハリを強くする、といった取り組みも広義ではジョブ型と言えます。
賃上げ、最低賃金の上昇、社会保険の適用範囲の拡大、定年延長、同一労働同一賃金など、人件費が上昇する要因の多い昨今、人件費の有効活用は企業にとって最重要テーマの一つです。
本格的に人件費を見直すキッカケになれば幸いです。