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退職者を出すマネジャーは失格なのか?

とある支援先企業の経営者の方から、このような話がありました。

 

「人事制度を構築する中で、改めて社員の退職に対して、考え方が少し変わったように思う。

拠点責任者(マネジャー)時代は、なんとか部下全員が退職しないよう気を遣っていた。退職者を出すことはマネジャー失格だと思っていた。何とかそうならないよう、努力をしていた。

経営者の立場になったら、退職も一定数仕方ないと考えるようになった。然るべき評価・処遇、配置転換をする。また、会社としての考え方やベクトルを示していく。そうした結果、本人が退職を選ぶことになっても、残念であるが、それも仕方がないことなのかもしれない。」

 

※表現は、要約・修正・補足している点があります

※意図して退職を促したい社員がいる、採用責任を放棄している、という話ではありません

 

マネジャー時代も真摯に部下に目を向けていただろうと、人となりを知る私は推察していますが、「退職者を出すマネジャーは失格」と考えていた背景に、退職者を出すとマネジャー自身の評価が悪くなることの懸念もあったと思います。

また、どこまで採用権限を持っていたか詳細はわかりかねますが、退職者が出ても直ちに代替人材の補填がされる保障があるわけではなく、他の社員に業務負担を強いてしまうことから、何とか辞めさせないように・・・と考えておられたと推察します。

 

現場マネジャーは、業績責任を負いながらも人材育成・管理責任もあり、心労が多い職務であると改めて思います。加えて、昨今ではハラスメント問題など、ますます気を遣う場面が多いでしょう。

こうした心理的背景もあり、部下への厳格な指導も憚られてしまう、評価寛大化や“私は高い評価をしたのだが、人事(会社)が勝手に評価を落としている”という言い訳を、ついついしたくなる…などの現象に発展するのではないかと考察します(もちろん、こうした現象が発生する理由はそれだけではないと思います)。

 

一方、経営視点からみた、退職含めた人材マネジメントの在り方は、合理性があるものと考えます。会社方針に合わない(互いに変化があって合わなくなった)、意欲的に業務に取り組まない社員が悶々としながらずっと定着していることは、組織の士気を下げるため望ましくないでしょう。また、そうした社員へ給与を払い続けるよりも、方針に納得して高いパフォーマンスを発揮する社員を厚遇したい、採用したい、組織としてしかるべき配置転換・代謝を推進したい、と考えることは当然です。

 

合理性ある人材マネジメントの実現に向けて

問題は、現場マネジャーのこの心労負担を軽減し、(経営視点でみて)合理性ある人材マネジメントを、効果的に実現するにはどうすればよいか、ということです。

 

①コミュニケーション

解決策の仮説の一つに、マネジャーと経営層、人事部含めて、オープンにコミュニケーションを絶えず取っていくことがあげられます。その土台には、経営が考えるあるべき人事方針・マネジメントポリシーを置き、現状はどうなのか、を定量・定性データを共有しながら、とるべき方策を絶えず対話する必要があります。

 

②退職原因特定とマネジャー評価の関係明確化

また、一定退職者が出ても、それがマネジャーのマネジメントと因果関係が証明できる事実がないならば、失格の烙印を押すことはない…と、共通認識を持つ必要があるでしょう。退職理由の本音を探れば、人間関係をあげられることもあるでしょうが、それだけとも限りません。実際のところを知るには、退職理由調査が必要となりますが、退職時点での理由は“タテマエ”しか分からない可能性はあります。そのため、定期的なエンゲージメント調査で、退職者含めそのマネジメント組織の経年での状況変化を追う…なども一案でしょう。

 

③タイムリーな採用・配置

その他に、現場は人材が過不足なく配置されないと、円滑に業務が推進できないといった事象につながるため、タイムリーに採用・配置を行えるような体制を構築することです。ただし、この権限や実行体制を、どのように事業部門と人事部門とで分担すべきなのかということは、取り組み面での課題です。

 

上記に列挙した解決策以外もあるでしょうが、どれも理想論ではあります。

そうしたほうが良いと分かっていても、ではだれが旗を振り、どのようにして取り組んでいくべきか…という実現に向けた課題が、また浮彫になります。

 

HRBP的なスタンスをもつ人事担当の重要性

少し前から、HRBPHRビジネスパートナー)という言葉が日本の人事領域でも出現し始めたように、単純に給与管理や労務管理などの機能を果たす人事部門にとどまるのではなく、企業戦略・事業戦略に基づき、経営・事業のパートナーとして人事戦略を構築し、現場に近いところで組織人事課題を解決していく役割の重要性が謡われてきました。

 

多くの中小企業では、HRBP専任人材を配置するほど、余裕はありません(事業部制であっても)。

しかし人事担当の心構えとして、入退社の事務手続きや評価の取りまとめをする、確実に給与計算・各種社保申請実務を行う…という事務処理屋に徹するのではなく、より各部円滑な事業促進につなげるため、人事面での課題解決・戦略実現をパートナーとして積極的に関与する “スタンス”も大事ではないか、と考えられます。

もちろん、スタンスをとるだけではなく、事務処理は極力省力化し(必要に応じてアウトソーシング活用など含め)、パートナーとして各種施策を検討し遂行するための体制構築や、人事担当者自体への育成・指導も必要になるでしょう。

 

経営戦略を実現するため、合理的な人材マネジメント方針が重要であることは説明不要ですが、事業も人材の育成・管理も、推進していく鍵となる人物は現場のマネジャーです。

以前に比べて、“人”に関わることの難易度が高くなり、転職・多様な働き方が一般的となりつつあります。人材管理が複雑になった今の時代、現場マネジャーに人事課題すべての責任を押し付けるのではなく、経営・人事が一枚岩になって課題解決を支援していくことが、今後益々重要になるのではないでしょうか。

我々は外部戦略パートナーとして、経営・人事・現場マネジャーとのオープンなコミュニケーションを大切に、各種施策の検討・実行を進められるようご支援をしていくことが重要である、と改めてコンサルタントとしての在り方も考える契機となりました。

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。