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賃上げショック、中小企業はどこへ向かう?

今年も賃上げのニュースで賑わっています。

 

連合(日本労働組合総連合会)は、春闘方針を、賃上げ目標5%以上(ベースアップ目標は3%以上)としました。昨年が「5%程度」だったことを考えると、より語気が強くなっていると言えます。

経団連は目標を「大企業で4%以上」としつつも、経団連会長は「連合の考えを理解できる」との発言をしており、企業側と労働者側の双方に大幅な賃上げ意識があることが浮き彫りになっています。

 

実際に、大手企業を中心に活発な賃上げ報道が出ています。

・サントリーHD()は、ベア・定昇で7%程度

・三井不動産()は、ベア・定昇・賞与で10%程度

()松屋フーズHDは、ベア・定昇で10.9

()ビックカメラは、ベアのみで非管理職に対し716%

これはほんの一部であり、他にも710%の賃上げ報道が多く出ています。

 

報道されるのは大企業が中心となりますが、一方の中小企業はどうでしょうか。

 

弊社(株式会社新経営サービス)では、中小企業を中心に賃上げに関するアンケートにご協力いただき、302社の有効回答数からデータを作成しました。

https://jinji.jp/news/report/11539/

これを見ると、例年より高い賃上げを行う企業(予定を含む)は28.8%となっています。

特徴的なところでは、例年よりも高い賃上げを行う、もしくは行う予定である企業の割合が、昨年比6割程度となっていることです。業績面や利益構造を考慮すると、賃上げに踏み切れないといった状況が見て取れます。

 

また、直近の商工中金の調査によれば、2024年に5%以上の賃上げ率を予定している企業は12.9%、平均2.58%となっています。

https://www.shokochukin.co.jp/report/data/assets/pdf/topics240130.pdf

一つ面白いデータとしては、企業規模が小さくなる程、大きな賃上げができる企業の割合が増える一方、賃上げができない企業の割合も同じように増える点でしょうか(25項)。

 

大企業と中小企業、あるいは大きく賃上げできる中小企業と賃上げできない中小企業、二極化に向かっていると考えられます。

 

 

もう少し具体的な話でも考えてみたいと思います。

 

筆者は、中小企業を中心に、評価・報酬制度のコンサルティングを行っていますが、昨年、人件費を大きく増やせないものの、何とか工夫して賃上げを行うための手段として、下記の例が多く見られました。

・何とか、新卒初任給を10,000円アップしたい

・ただし、全社員を10,000円アップさせると、コストインパクトが大きい

・仕方がないので、主任クラス8,000円、係長クラス6,000円など

逓減的に賃上げし、管理職の賃上げは見送る

 

昨年は仕方なくこの方法を取った企業も多かったのですが、今後しばらくは賃上げブームが収まらない状況の中、これが数年続けばどうなるでしょうか?

 

また別の話として、最低賃金が大きく引き上がっているという問題もあります。

例えば、最低賃金付近で契約社員を雇用している場合、最低賃金が40円アップすると、月の労働時間160時間の契約社員の月給は6,400円アップすることになります。

 

若い社員とベテラン社員・管理職の差がなくなる、また非正規社員と正社員との賃金差がなくなる、といった現象が現実に起こっており、これを続ければ、企業の賃金制度は間違いなく破綻します。

 

本来的な解決策は、業績向上(コストの価格転嫁を含む)により使える人件費を増やすことですが、筆者はこの分野でのソリューションを持ち合わせていませんので、できることは人事面での解決策となります。

 

 

筆者が作った造語で、「人件費ミックス」という言葉があります。聞き馴染みはないと思いますが、「粗利ミックス」という言葉なら聞かれたことがあるかもしれません。

店舗型小売業では必須となる考え方で、例えば、安売り(薄利)の商品で来店を促し、しっかりと利益率を確保できる商品も一緒に買ってもらうことで、トータルで利益率を確保するという考え方です。

 

中小企業の賃金ポリシーでは、この考え方が必要です。

大きく賃上げを行い、会社の中心となり、頭脳として活躍してもらう「コア人材」と、大きな賃上げはせず、コア人材の下で、仕組みの中で動く「一般的な人材」を上手くミックスして人材と人件費のバランスを保つ必要があります。

 

ただし、「一般的な人材」に対しては、賃金以外の方策が必要となります。

 

筆者のお客様の多くは中小企業ですが、最近、離職理由としてよく耳にする状況があります。それは、「会社が嫌いになった訳ではないが、何気なく転職活動をしてみると、転職先(大企業)から大幅年収アップで条件提示を受け、背に腹は代えられずに退職を決意した」というものです。会社が嫌いな訳じゃないのに退職、非常に残念です。

 

理想論かもしれませんが、「ふと転職活動をさせないこと」で重要です。

できれば、中小企業ならではの「融通の利く働き方」が可能となるよう、労働環境を整備したいものです(話が長くなりましたので、具体的な話は別の機会に譲ります)。

最近はES(従業員満足度)向上とCS(顧客満足度)向上は強い相関性がある、という多くの検証結果が出ていますので、賃上げに限らず、働く環境整備についても方策を打っていただきたいと思います。

 

<タイトル回収>

賃上げショック、

中小企業は「人件費ミックス」の考えを持った上で、

「賃上げ」と「働く環境整備」を同時進行させてください。

執筆者

森谷 克也 | 人事戦略研究所 所長

企業の成長を下支えする人事戦略の策定・活用が図れるよう、
経営計画・人事システム・人材育成を一連で考える
人事戦略コンサルタントとして実績を積んでいる。
企業支援においては、①企業風土(社風、経営理念など)を大切にすること、
②中期的視点(業界環境、管理者レベル等)を持つこと、
③そして何よりシンプルで分かりやすいことをモットーとしている。