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インセンティブ制度を見直す際に考えるべきこと

インセンティブ制度は、成果を数字で適切に測れる職種において、非常に有効に機能します。しかし、賃金に占めるインセンティブの割合を低減(あるいは廃止)し、数字以外の評価要素における割合の増加を検討する場合もあります。この検討を行うきっかけとしては、次のようなことが課題になっていることが多くあります。

 

【インセンティブ制度見直しのきっかけとなる課題】

課題① 未経験者の定着・採用

未経験者はすぐに成果を上げられないので、インセンティブが重視された制度であれば、賃金が低くなりがちです。結果、「賃金の低さに耐えられず戦力化する前に退職が発生する」「固定給の低さを嫌悪されて未経験者の採用ができない」などの状況が生まれがちです。特に、昨今は人材獲得競争の激化に伴い、経験者採用から未経験者も採用可とする方針に切り替える企業も増えており、この問題に直面しやすい状況があるかもしれません。

 

課題② 人材育成

インセンティブが重視された制度であれば、個人の数字に目が行き、部下・後輩の育成やフォローに意識が回りにくくなります。こうした人材育成への取り組みなど、数字以外の部分での評価による報酬割合を増やすことで、意識づけを図ろうという意図で見直しのきっかけになりえます。

 

課題③ 連携の促進

例えば、「連携して高品質な対応をすることで、中長期的・全社的な利益につながるが、協働すると自分の“割が悪くなる”ため、個人で動きがちになる」といったことが発生しているようなケースが考えられます。連携を促進できるようにすべく、インセンティブ制度を見直すきっかけになります。

 

 

【インセンティブ制度の見直しにあたって持つべき観点】

インセンティブ制度を改定した結果、先ほどのような課題を解消はできたが、マイナス面のほうが大きかった」となっては本末転倒です。それを防ぐために、検討にあたっては以下のような観点を持って考えることが重要です。

 

観点① インセンティブ制度の見直し以外に代替措置はないか

インセンティブ制度の変更は影響度合いが非常に大きいため、慎重に考える必要があります。現行の制度を大きく変えることなく、課題解決をする方法がないのかを最初に検討する必要があります。考えられる具体策の例をいくつか挙げてみます。

 

・入社して一定の年数までは、売上に関わらず一定の額の賃金を保証する(対課題①)

・人材育成への取り組み状況を昇格の要件として勘案する(対課題②)

・個人数値のインセンティブだけでなく、部門やチームのインセンティブも取り入れる(対課題②・③)

・「複数名で担当した場合にも、貢献度や負担に応じて適切な売上計上ができるような按分ルールを設定する」「左記ルールに加え、個々の売上額では“割が悪くなる”案件でも、会社としては連携して価値を提供すべきと判断できる案件について、売上額と別に特別加算の売上額をつけるルールを設定する」など、連携を促進できる・阻害しない売上計上ルールをつくる(対課題③)

 

上記以外にも、ケースに応じて考えられる措置は様々あります。まずは、こうした措置で対応できないかを優先的に考えてみましょう。

 

観点② ハイパフォーマー冷遇になっていないか(なりすぎていないか)

賃金に占めるインセンティブの割合を減らした場合、例えば「売上での貢献度は非常に高いが、それ以外の面での貢献がほとんどない」といった社員については、賃金がダウンしてしまう可能性が高いです。いかに売上以外の部分も重要視していくという方針であっても、売上面で極めて高いパフォーマンスを発揮している社員に対しても一律に対応して問題ないのかは、会社として慎重に考える必要があります。

なお、こうした社員に対しては、例えば「一定の実績を上げた社員が選択可能なインセンティブの比重が高い賃金制度となっているコースを用意する」といったような複線型の人事制度とすることも検討できます。

補足として、人件費増を許容できない場合は、必ずトレードオフが発生します。個別の具体的な検証(シミュレーション)を行い、賃金の割振り直しをして本当に問題ないかを確認しましょう。その結果も踏まえながら、「賃金に占めるインセンティブの割合を下げる」という方針を本当に行っていくかということ含めて、再度検討しましょう。

 

観点③ 数字以外の面を適切に評価できる体制であるか

「数字以外の評価要素による賃金の割合を増加させる」ということは、数字以外の要素での評価の重要度が高まります。

そのため、「A.必要な貢献の適切な洗い出し(=適切な評価表の作成)」と「B.評価に対する被評価者の納得性の確保」が重要となります。

 

Aに関しては、弊社のウェブサイト内にも評価表のサンプルをご用意していますので、ご参考ください。

https://jinji.jp/samplesheet/evaluation-list/

 

また、Bに関しては、以下の小生の過去ブログにて施策をまとめております。よろしければこちらもご参考ください。

https://jinji-seido.jp/column/1937/

 

 

本稿がインセンティブ制度の見直しを行う際に、少しでも参考になれば幸いです。

執筆者

小田原 豪司 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

大学で経営学全般を学ぶなか、特に中小企業の「ヒトの問題」に疑問を感じ、新経営サービスの門をたたく。
企業の「目的達成のための人事制度構築」をモットーに、顧客企業にどっぷり入り込むカタチで人事制度策定を支援している。