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【森中】「国家公務員の定年延長」が民間企業の定年延長に与える影響

先般、国家公務員法の改正により、国家公務員の定年が延長されることとなりました(令和341日改正、令和541日施行)。改正法の概要については下記URLをご覧ください。

siryou1.pdf (cas.go.jp)

 

本法は国家公務員を対象とするものであり、民間企業の労働者には適用されませんが、その内容は民間企業の今後の定年延長に向けた改革にも影響を与えることになると筆者は考えています。その主たる理由は以下の通りです。

 

(1)理由①段階的定年延長の手法は、多くの企業にとって受け入れやすい

 

改正国家公務員法の最大の特徴は、定年延長が段階的に行われることにあります。具体的には、令和4年度(2022年)から2年ごとに1歳ずつ定年年齢が引き上げられることとなり、同法によれば、最終的に定年年齢が65歳になるのは令和12年度(2030年)からとなります。定年延長に関する民間企業の先進事例の多くは、60歳から65歳まで一気に引き上げを行うところが多いですが、国家公務員法で定められた段階的定年延長方式は組織運営の観点、また人事制度改革の観点からも、多くの民間企業にとっては受け入れやすいものであると考えます。

 

(2)理由②定年延長でも60歳以後の賃金を下げる手法は、多くの企業にとって受け入れやすい

 

改正国家公務員法の2つ目の特徴は、定年年齢の引き上げに合わせて、国家公務員の給与制度についても大きな変更を加えることが想定されている点にあります。具体的には、「当分の間、職員の俸給月額は、職員が60歳に達した日後の最初の4月1日(特定日)以後、その者に適用される俸給表の職務の級及び号俸に応じた額に7割を乗じて得た額とする。」という内容が、具体的に規定されています。また、60歳を超えて引き続き同一の職務を担う場合でも、当面、60歳前の7割水準とする」という方針となっていることもポイントです。

これらの給与制度改革の方向性は、多くの民間企業が今後定年延長を検討するにあたっても受け入れやすいものであると考えます。そもそも、7割という基準は、既存の会社の多くが定年再雇用制度で設定している60歳以降の賃金水準と類似しますし、同一職務のままでも60歳以後の賃金水準を引き下げることを是としている点も受け入れやすいポイントでしょう。

 

(3)理由③60歳到達後の役職定年制、短時間勤務制等の導入は、多くの企業にとって受け入れやすい

 

最後に、定年延長の導入により組織運営に支障が生じることのないよう、「役職定年制」や「短時間勤務制度」が導入されている点も、民間企業が定年延長を推進するにあたり、受け入れやすい内容であると考えられます。役職定年制に関しては、「管理監督職員(課長以上層)は、60歳に達した日以後における最初の4月1日までに他の官職に降任又は転任(任用換)」になると規定されています。任用換後の処遇は非管理職層ですが、「専門スタッフ職又は課長補佐級ポスト」ということで、能力や経験を踏まえた一定以上の役割が与えられるようです。

短時間勤務制度に関しても、民間企業で取り入れやすい仕組みであると考えられます。定年延長=65歳までフルタイムの継続、ということが大前提になってしまうと、どうしても柔軟な働き方、多様な働き方に対応しにくいですし、他社よりも高年齢化のスピードが速い企業では、将来的にシニア層全員にフルタイムの仕事を与えられるかどうか、という課題もつきまとうことになります。改正国家公務員法は、あくまで60歳を超える職員の「希望に基づく」短時間勤務制度であるという前提がありますが、民間企業においても、短時間勤務制度をシニア層に対する働き方の選択肢として提示する中で、効率的な組織運営に繋げていくことが期待されます。

執筆者

森中 謙介 | 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。初めて人事制度に取り組む中小企業がつまづきやすいポイントを踏まえ、無理なく、確実に運用できるよう、経営者に寄り添ったコンサルティングを旨としている。