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中小企業こそ採用に妥協してはならない

人が足りない⇒妥協採用⇒組織弱体の悪循環

東京商工リサーチの調査によると、2025年度の人手不足関連倒産が442件と過去最多を記録したとのことです。ご承知の通り人手不足は、事業継続そのものを左右する経営リスクとも言えます。

しかし、「誰でもいいから採用しよう」と基準を下げると、組織は弱体化します。

今回は、なぜ妥協採用が組織を弱体化させるのか。また、そうならない為の打ち手を考えます。

 

中小企業の「一人の重み

大小問わず、どの企業にとっても人材採用は重要です。ただし実際のところ、1,000人の組織に1人加わることと、50人の組織に1人加わることのインパクトは異なります。

中小企業では、従業員一人ひとりの顔もお互いに見えます。その1人が持ち込む仕事のやり方、価値観、コミュニケーションのスタイルは、会社全体の雰囲気に影響を及ぼすとも言えるでしょう。

たった1人の採用でも「経験豊富で優秀な人材が獲得でき、その人材がもつノウハウを周囲の社員に波及させることで、チーム(会社)の生産性を底上げできる」可能性も秘めているし、最悪のケースでは「腐ったリンゴ的な存在になる」リスクも孕んでいます。

それだけ、特に中小企業における採用は重要な経営判断といえるでしょう。

 

妥協採用の理由、妥協採用が起きるとどうなるか

多くの中小企業では、経営者自身がトップ営業を兼ねるなどプレイヤーとしての役割も担っています。また、余剰人員を抱えることも難しく、社員それぞれの仕事量に余裕がないことも考えられます。

だからこそ、誰かが退職すると「別の誰かを入れないと回らない」という切迫感が生まれます。そして、この切迫感と「折角応募してくれた希少な人材は逃すまい。次に、応募が来るかは分からない。」という母集団形成の余裕のなさも相まって、「多少欠点は目をつぶって採用しよう」と基準を下げる要因となります。

 

そして、採用基準に達していない人材を採ったとき、何が起きるのでしょうか。
悪い例としては、こんなことが考えられます。

 

①【受入体制の弱さ×期待能力の満たなさ】既存社員は自分の仕事で手一杯。人材を育てる時間や、余裕をもって歓迎するコミュニケーションをとる気にもならない。そんな中で、新しい人材が来たものの、受け身で能動的に仕事ができない。既存社員の負担は減るどころか、「なぜあの人を採ったのか」という不信感が募る。結局、新規採用者も居所が悪くなり早期離職。

②【風土ミスマッチ】チームワークが重要視されてきた風土。しかし、そこに新しく入った人材は「優秀でスピード感もって仕事ができるが、しばしば独断的傾向。既存社員との価値観・仕事の進め方の相違など、コミュニケーション面で衝突が多々発生」。結果的に、対立構造になりチーム生産性は上がらずむしろ悪化。

 

・・・など。

 

人材採用はできても、組織全体の生産性は好転せず、人材充足感にもつながらず。場合によっては、採用人材が早期離職。あるいは、既存社員側が「なんであんな仕事できない人採用したのか。しかも自分よりも年収高いらしいし、やっていられない」と、嫌気がさして辞めていく。入退社が度々続き、そしてまた結局、採用をし続ける…。こうした悪循環に陥るリスクがあります。

さらに、この循環に陥ることで、採用基準そのものが下がり続けるリスクがあります。気がつけば「うちには、どうぜこのレベルの人しか来ない会社」という自己認識が、経営者や採用担当者の中に固まっていく。経営者自身が、自社の可能性に蓋をしてしまうことも起こり得ます。

 

「採用競争力」という視点

「採用を妥協するな」では精神論に終わります。妥協しない構造をつくらねばならないのです。

そこで持っていただきたいのは「採用競争力」という考え方です。

 

採用競争力を上げるには、給料が大事と直感的にお考えになるかもしれません。しかし、賃金だけが採用競争力の源泉ではありません(もちろん、一つの重要なポイントにはなります)。

採用競争力は、構造的に大きく二つの層からなると考えます。

 

A:「採用活動~定着支援までの活動プロセスの質」

求める人材に自社・求人の存在を認知され、応募してもらい(母集団形成)、入社意欲を醸成し(動機付け)、適切に見極め(選考)、入社後に活躍できるよう支援する(オンボーディング)。

この一連のプロセスが、求める人材像と合致して戦略であることが大事です。

 

B:大前提の「受入基盤」

就業環境や人事制度(報酬含む)といったハード面、経営理念や企業カルチャー、社員の関係性といったソフト面。これらは土台の部分です。この土台が、求める人材にとって魅力的であり、マッチするかも非常に大事です。

 

中小企業が採用で苦戦する大きな原因の一つは、「A:採用活動」において、そもそも母集団が足りていないことです。知名度で大企業に勝てない以上、「求める人材層」を絞り込み、その人材に届く訴求を工夫する必要があります。

もちろん、届く訴求をすればいいというものではありません。

B:受入基盤」が脆弱であれば、求職者に会社や求人募集情報は認知されていても、応募に至らないでしょう。また、表だけ良く見せてハリボテの状態で採用できても、結局入社後にギャップが生じ、辞めていくでしょう。Bで問うべきは、「わが社は、実質的に選ばれる会社か?」「社員たちは、わが社で働くことに誇りを感じているか?」。この問いに自信を持って「はい」と答えられるかどうかが、採用競争力の土台になります。

 

万人受けを目指さない

どのように考えていくとよいか、もう少し具体なケースで考えます。

 

まず、万人受けを目指す必要はありません。

例えば、①ガッツある新規開拓営業(toB) 、②接客重視カウンターセールス(toC
各職務の採用では、求める人材像も、採用活動戦略も、土台の受入基盤のあるべき姿も異なるでしょう。

 

「①ガッツある営業マン」の求人上で、「弊社は、残業が少なく定時で帰れて、休みも多い!福利厚生も充実しています!」をメインに打ち出しても、効果性が低いでしょう。

応募数を増やすことに効果はあるかもしれません。しかし、安定を志向し福利厚生目当人材からの応募ばかりでは、自社の求める人材(=ガッツある)から乖離し、結局ミスマッチ採用になりかねません。

 

例えば、元気で体力ある若年層人材にターゲットを絞る。そうとなれば「1年でどこでも通用する提案営業人材へ。そして成果に応じて報酬も大幅アップ」「一人前までスピーディーに育てるマニュアル・OJT・育成文化がある」など、身に着けられる能力や、スピード感ある成長ストーリー、報酬の見返りを見せていく…などが有効となるでしょう。もちろん、訴求するストーリーが真実であることが大前提です。

 

反対に、「②接客カウンターセールス」には、前述の“ガッツ・元気な若者像”は求める人材から遠い気がします。それより“安心感を与える印象、丁寧に話を引き出せる力”などが重視されるのではないでしょうか。

例えば、「育児ブランクがあるが、正社員として頑張りたい。笑顔が良いワーママ」像にターゲットを絞るとしましょう。

そうとなれば「コミュニケーションをとることが好きなら未経験OK」「ブランクがあっても子育てと両立可」「同じ境遇の先輩も活躍」「残業ほぼなし」などを打ち出すと響くでしょう。

また、働くブランクがある方は、いきなりフルではなく時短・週3勤務からスタートするなど、オンボーディングの在り方や制度を工夫するのも一案かもしれません。報酬は多くなくても柔軟に働く環境を構築し、多様な人材が活躍できる制度とすることも一つの採用・定着戦略として考えられます。

 

このように、企業や業種・職務ごとの求める人材像とターゲットによって、土台整備や打ち出し方の戦略は全く異なります。

 

根本的な問い:御社は選ばれる会社ですか?

繰り返しますが、採用に妥協することで発生する悪影響は、悪循環スパイラルとなって組織を弱体化していきます。

良いスパイラルへ好転させるためには、採用活動や受入定着支援の在り方をより戦略的に工夫する。それだけに留まらず、どこかで組織改革が必要になるかもしれません(それは制度論的なものから、既存社員の代謝、組織内のコミュニケーションの在り方まで幅広く)。

 

採用は、母集団形成(「求人媒体の選び方」「求人訴求の仕方」⇒「量の獲得」)問題に終始してはなりません。選考過程では「当社が求める人材基準を満たしているか」を見極めることが重要です。同時に、「求職者も、この会社で働きたい」と思ってもらえるよう、動機付けも大切です。これは、内定辞退にも影響します。

 

では、どうしたら「この会社で働きたい」と思ってもらえるのでしょうか。

選考過程でのコミュニケーションの取り方も当然重要です。しかし、「そもそも、わが社は選ばれるに値する会社か?」を考え抜いて、組織をアップデートし続けていくことも大事でしょう。実際働いている社員に生気も希望もない会社に、誰も勤めたいとは思いません。

 

さらに、中小企業特有の観点では、経営層と社員の距離が近いことにあります。「客観的に見て、自分(経営層)は、一緒に働きたいと思われる存在だろうか?」経営者自身も、より良いあり方の追及や佇まいも重要になるでしょう。

 

「いい人材を採る」ためには、「A:採用活動~定着支援までのプロセスの質」を、求める人材・ターゲットに合わせて戦略的に改善していく。その活動を改善するためにも、中長期視点で組織を強化していくためにも、「B:大前提の「受入基盤」が、求める人材に選ばれるに値する、良い会社である」状態を目指していく。

A・B両面とも、短期・中長期視点で常に戦略をもってアップデートし続けていくことが肝要です。

 

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執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。
業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。