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新人事制度の導入時TODO

人事制度(人事評価・賃金制度)の変更は、社員にとってインパクトが大きい事柄です。 “何をどうすれば、自分の給料が決まるのか(今後上がるのか)”は、キャリアやライフプランを考える上で大きな関心事ですし、仕事の取組み意欲やエンゲージメントにも影響します。社員が新たな人事制度を理解し、社員や会社双方にプラスの作用を生む一助とする、あるいは法的リスク軽減や労使トラブル回避のためにも、人事制度変更時のコミュニケーションは非常に大切です。

 

また、経営観点でみても、社員へ会社方針を伝えていくことは重要なプロセスです。会社がどのような意図で人事評価制度・賃金制度を変更するか、変更に至る背景や目的の説明を行い、会社が求める人材像の獲得・創出に活かせる組織の土壌づくりの機会とすることが肝要です。また、人事評価制度は、評価者となる社員が制度を十分に理解していないと、正しい運用ができません。制度の効果性を高めるためにも、社員がその仕組みを納得・理解している状態にする施策も大切です。

 

そこで今回は、あらためて「新人事制度(評価・賃金制度)導入時のTODO+その留意点」を確認していきます。

 

【新人事制度(人事評価・賃金制度)導入時のTODO

①新制度説明会の実施

②質疑応答(QA

③社員個別に条件通知

④評価者研修

 

①新制度説明会の実施

社員に対して新人事制度を説明実施するにあたり、決めておくべき内容は以下の通りです。制度変更の際は、各種規程改定作業や、説明会準備期間もスケジュールに組んでおくとよいでしょう。

・実施時期:人事評価・賃金制度が切り替わる前(理想:制度導入の23ヶ月程度前)

・実施方法:対面andorオンラインでの説明会実施、説明動画の配信…など

・説明内容:新人事制度を導入するに至った背景・目的、今後社員に期待すること、新制度のポイント・内容、新制度への移行方法(等級や賃金の切り替えに関する考え方や移行措置)や移行スケジュール…など

 

◇実施方法ポイント補足

●昨今、複数拠点がある会社ではオンライン開催が一般的です。また、説明動画を作成し、それを配信・公開する方法もあります。説明動画を作成しておくと、説明会にリアルタイムで参加できない社員や、今後新たに入社する社員への説明に、流用することもできます。なお、説明動画を配信・公開する場合、社員が適切に視聴完了しているかをチェックする仕組みや、一方通行の情報伝達に終わるだけでなくフォローする機会を作っておくとよいでしょう。動画のクオリティによっては、制作準備に手間・時間はかかりますが、選択肢の一つとして考えておくとよいでしょう。

 

●なお、リアルタイムで制度説明会を実施する場合、全社員同じ時間を確保することは難しいため、複数回に分けて開催するケースも多くあります。この際注意する点は、説明会の間隔が空きすぎると、“情報を知っている人”“知らない人”に区分されることです。各回開催は間隔が空きすぎないようにするなど、スケジュール組に気を付けるとよいでしょう。

 

●また、管理職層、一般社員層と階層を区分し、説明順序・内容を分けて実施することを推奨します。多くの会社では管理職が評価者であり、制度運用に関与する重要なキーパーソンです。そのため説明順序は、管理職層を先行して実施するとよいでしょう。新たな人事制度方針を管理職が理解している状態にしておくと、その後一般社員層から疑問が出た際に、管理職からも新人事制度の説明ができるようになります。また、階層を区分して実施することで、部下育成や評価制度運用に関する質疑応答も行いやすくなります。理解浸透効果を上げ、スムーズな運用に繋げるために、説明対象者の区分や順序、内容の工夫も重要です。

 

◇説明内容ポイント補足

大事なことは、“この人事制度を策定するに至った背景は何か”“制度の核となる考え方は何か”などの「目的・理由(Why)」を明確にして伝えることです。

例えば、

・年功的昇格制限の撤廃→“若くても役職に抜擢する仕組みとし、適材適所を実現する”

・年齢給の廃止→“年齢問わず、責任を担う社員や、成果を上げる社員に報いる”

・住宅・家族手当を減額し、基本給増額→ “人件費の配分を、属人的給与から仕事に関連する給与へ多く配分。雇用区分に関係なく、やればやるだけ報われる感をより高め、仕事への意欲を高めたい” ―…など

単に「制度をこのように変更しました」という細かい話や制度論に終始せず、その理由や目的を説明すると「会社は今後、どのような人材に報いていきたいと考えているのか、どういう評価・賃金ポリシーか」の理解度は上がるでしょう。

 

②質疑応答(QA

新しい人事制度の説明をした上でも 「一度聞いただけではよく分からなかった」、「理解ができなかった」など、疑問が残る場合もあります。疑問を解消することも、説明義務を果たし、理解度を上げるという点において大事なプロセスです。

そうした疑問を受け付ける方法としては、以下があげられます。複数方法を組み合わせるとよいでしょう。

・説明会時に、全体の場で質疑応答時間を設ける

・説明会後に、個別に質疑応答時間を設ける

・アンケートや質問用フォーム等を用意し、説明会時/説明会後に記入→後日回答する

 

なお、「説明会実施時はすぐに疑問が出なくても、あとから気になる点があった」という場合もよくあります。そのため、説明会後の質問受付は1週間程度など、少し期限を設けて設定するとよいでしょう。余談ですが、どのみち質問したい社員は、自発的に質問してくるなどアクションを起すでしょう。そうしたことを踏まえると、何らかフォーム(入力項目)を用意しておいた方が、質問を仕分けする上で負担軽減になります。後手に回り対応に追われないよう、事前に質問受付方法やフォーマットを検討しておくことを推奨します。

 

また、受け付けた質問・疑問が、特に個別事情に関わらないケースであれば、QA表を作成して後日全体に公開する方が、社員の理解度を揃える上では効果的かつ平等な対応となるでしょう。

 

③社員個別に条件通知

新制度における等級や役職、給与等を社員に通知するため、新旧(現行)の等級・役職、給与項目別金額を記載した通知書を作成してお知らせすることを推奨します。

 

なお、新制度において給与が下がるなど、個別に不利益が生じる一部社員がいる場合には、その減額となる金額がどのように計算されたか、調整方法や経過措置はいつまでになるか、制度説明会とは別に個別面談を実施するとよいでしょう。社員にとっては生活に関わる話ですので、真摯な対応が法的リスクを軽減させる意味合いからも求められます。

※人事制度変更が合理的理由で、総額人件費を減らさない、一部の賃金減額社員には数年間の激変緩和措置を設ける等を検討していても、労働組合や社員への対応等で不安がある場合は、顧問弁護士等の法律専門家へ事前に相談しておくとよいでしょう。

 

④評価者研修

新評価制度の運用に関わる評価者に対しては、制度の理解度を揃える、具体的な運用方法(いつ、何をするのか)がイメージできる状態になるよう、評価者研修を行うことが有効です。

 

評価制度の理解浸透・定着を図るために、第1回を制度導入初期に実施、第2回を最初の評価実施タイミングに実施して、評価システムの疑問を解消し理解を深めるなど、実施時期や内容(プログラム)を工夫して実施することを推奨します。

 

冒頭で述べましたが、人事制度の変更は社員にとってインパクトが大きい事柄です。伝え方や導入取組みを疎かにすると、不安や不満、変更による煩わしさを与えてしまうだけになってしまう、改悪などの誤解を招くなど、思いもよらないネガティブな反応があることも想定されます。

新人事制度設計時に描いている目的の達成に向けて、より意義ある制度変更となるよう、導入時の取組みの参考になると幸いです。

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。