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人事制度設計における「有意義な他社事例活用」と「無意味な他社事例活用」

筆者が人事制度設計のコンサルティングを行っている段階、あるいは、コンサルティングを行う前の段階において、「他社事例を知りたい」との声を聞くことは多くあります。

弊社では1000社以上での人事制度設計の実績がありますので、事例が多いのは強みの1つではあり、ご要望にお応えできるケースも多くあります。その一方、「そのような趣旨で事例を知っても意味がない・逆効果」というケースがあるとも感じます。

今回は、人事制度設計において、他社事例を活用する上での良い使い方、悪い(あるいは意味のない)使い方についてまとめたいと思います。

 

私の考える代表的な良し悪しをまとめたのが次の表です。

 

他社事例を活用する上での代表的な良し悪し

 

それぞれの詳細について、以下、述べていきたいと思います。

 

1について(成功事例と失敗事例の活用)

プロ野球の選手・監督として有名だった故野村克也氏の言葉に、次のようなものがあります。

 

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」

 

これは、「試合の勝敗において、特に明確な理由なく勝てることはあるが、負けるときには何かしら明確に理由がある」といったことをおっしゃっています。万事に通ずる言い方にすると、「やると必ず成功するというものはないが、やると必ず(あるいは高確率で)失敗するものはある」と言えるでしょう。

人事制度に置き換えると、失敗事例には多くの共通項がある一方、成功事例には共通項が見出しににくい、と言った所でしょうか。

実際、私も様々な企業様を見てきた中で、成功事例はその企業における諸条件(業種、規模、風土、企業ステージ、社員特性、など)が前提としてあるからこそ、その企業において上手く行っていることが多いと感じます。特に変わった成功事例になるほどその傾向は強くなります。一方、「これをやると、どのような条件であっても高確率で良くない」というものが数多くあります。

事例を参考にする際は、是非、こうしたことを念頭に置いていただければと思います。なお、成功事例をそのまま活用した、というのは失敗事例の最たる例と思います。

 

2について(定量評価・定性評価の事例活用)

人事評価制度をつくる際に、評価項目や評価基準を参考にするのは有効だと考えられます。特に、定性評価の項目・基準については、手前味噌ながら、弊社の長年積み上げてきたノウハウもあり、その表現方法等、ご支援事例を効果的に参考にいただいていることも多いと感じています。

一方で、定量評価の評価項目・基準については、必ずしも有効でない場合があります。というのも、他社事例を多くお示ししただけでは、評価項目自体に目新しいものがあるということがないことが多くあるためです(いわゆるKPIKGIが中心となり、これらについては自社内でも考えられる候補を洗い出されているケースが多い)。そのため、事例を知っただけでは制度設計が進まないケースが多いことには注意が必要です。

少し話は逸れるかもしれませんが、コンサルタントが提供している価値の1つに、自社の考え方を明確にし、そのためにはどの評価指標とすべきかを整理していくことがあるかと思っています。とにかく示してもらったら作れる、といったスタンスの企業様に出会うこともありますが、それでは進まない可能性が高いことは事前にお伝えをさせていただていています(それが正しければ、社内で出来上がっていることがほとんどのはずだと考えています)。

なお、以下の弊社ウェブサイトに、評価シートのサンプルが無料でご覧いただけますので、よろしければご参考ください。

https://jinji.jp/samplesheet/evaluation-list/

 

筆者の個人的な所感としては、あまりにも他社事例を求めている(そこに重きを置きすぎている)企業様は、人事制度設計が上手く行かない・そもそも全く進まないという状況に陥りがちだという印象を受けます。

やはり、まずやるべきことは、自社の現状・あるべき姿・問題点を整理するという王道のステップだと思います。このステップなしに、事例を探し出しても、どんな事例があれば良いかの判断すらつきません。まずはこのステップを踏むことを大前提とした上で、今回お伝えしたことにも留意しながら、効果的に他社事例を活用いただければと思います。

 

執筆者

小田原 豪司 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

大学で経営学全般を学ぶなか、特に中小企業の「ヒトの問題」に疑問を感じ、新経営サービスの門をたたく。
企業の「目的達成のための人事制度構築」をモットーに、顧客企業にどっぷり入り込むカタチで人事制度策定を支援している。