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「地域限定社員制度」は最適解か? ~地域限定社員制度を廃止した最新事例の紹介~

1:地域限定社員制度とは

転勤したくないという志向の人材増加に伴い、ここ10年程度で地域限定社員制度を導入した企業は多いように感じます。

地域限定社員制度とは、「A.配属場所に限定がないコース」と「B.配属場所が特定の範囲内に限定されるコース」を設定し、(広域での)転勤を望まない社員のニーズに対応するような制度です。一般的に、Bのコースについては、Aのコースよりも処遇を低く設定することが多いです。

 

2:地域限定社員制度のメリットとデメリット

地域限定社員制度については、一見すると良いことずくめの制度に見えるかもしれません。なぜなら、「社員にとっては単に選択肢が増える(自身の転勤に対する考え方に応じてコースを選べる)ものであること」「会社にとっては、Bを選択する社員が増えると、その分の人件費を低減できること」といった特徴があるためです。

しかしながら、実際には、以下のような運用上の難しさやデメリットが発生する制度でもあります。

 ①部署によってAのコースでも転勤がない、あるいは極めて少ないなどの違いがある場合、不公平感が生じる(かと言って、異動が発生しない人事部や開発部などを強制的にBコースにすることもできない)

 ②会社としてAコースを選んでほしい人材が、Bのコースを選択してしまうリスクがある

 ③全国に多くの拠点があるような企業でなければ、Bのコースにおける限定範囲を社員にとって意義のあるものに設定できない
(⇒例えば、「関東エリア」「東北エリア」などの設定では、転居を伴う転勤が発生しうるため、転居を伴う転勤を嫌う社員のニーズは満たせない)

 ④「転勤を限定することで処遇が下がる」ということが明確に見えてしまう
(⇒そもそも転勤を求めない企業と比較した際では、人材への訴求力が相対的に弱い)

 

こうした難しさ・デメリットが強く出る場合では、地域限定社員制度が上手く機能しない可能性が高くなるため、導入は慎重に検討する必要があります。

 

3:地域限定社員制度を廃止した事例

一方、転勤したくないという志向の人材は確実に増加しているため、何かしらの対応を考えている企業も多いかと思います。そこで以下、「地域限定社員制度の廃止」を行いつつ、「転勤を嫌う社員のニーズへの対応」と「人材流動性の担保」を実現した事例をご紹介します。

本事例においては、上記の①、④が特に問題となっていました。加えて、会社全体として、転居を伴う転勤を嫌う社員が多い状況でした。

検討にあたっては、まずは転居を伴う異動の目的・必要性、発生頻度、対象者などについて整理を進めました。その結果、以下のように整理することができました。

 

【上位等級の管理職】

・戦略的な人材配置の観点から、一定の年数で異動を行う必要がある

・異動の人数は年間数名程度だが、対象者がそもそも少ない中から選ぶ必要がある(20名程度)

 

【上記以外の社員】

・基本的に人材の過不足が発生した際に行われる。

・その際、異動者が異動先で得られる経験の有意性を考慮して選定している。

・人数については、年間5名程度(全体の人数は約200名)

 

 以上、整理した事項も踏まえ、制度改定は以下のように行いました。

 

制度改定

 

本事例のポイントについては、以下の2点が挙げられます。

 

<ポイントⅠ:コース分けの廃止と、一定の階層までの転居を伴う異動の制限>

上位の管理職については、そもそもの人数が少ない、かつ、一定の年数で異動を行う必要性がある、という状況であるため、人材の流動性を確保すべく、異動の制限は設けない形としました。

一方、それ未満の階層では、「異動をしてもらう必要がある人数は多くないこと」「異動に際しては、特定の人でなくとも良いこと」を踏まえ、本人の同意なく転居を伴う異動はない形としました。その形としても、必要な人材の流動性は確保できると判断できたためです。

なお、異動を打診する際には、転勤によって得られる経験などについての説明も十分に行い、将来のキャリア等も踏まえた判断を本人が適切に行えるような情報を出すことを心掛けた運用を行っています。

 

 

<ポイントⅡ:転勤者に対する「転勤プレミアム手当」の支給>

上記の通り、一定階層未満の社員では、転居を伴う異動の拒否権があります。こうした中でも、一定の人材流動性は担保する必要があります。

そこで、転勤している社員に対して、「転勤プレミアム手当」を毎月支給する形とし、転勤をすることへのインセンティブを付けました。(※「単身赴任手当」「家賃補助」「引っ越し費用に関する手当」など、転勤に伴って発生する生活費等の負担増に対して支払われる手当は別途あり)

従来では、「転居を伴う転勤が“発生する可能性”」に対して処遇差を設けていたこととなりますが、改定後では「転居を伴う転勤が“発生していること”」に対して処遇差があるため、公平性の観点での問題はなくなりました。また、「転居を伴う異動がないことが基本である」という見え方となり、採用時の印象も良くすることができました。

 

 

繰り返しになりますが、筆者が様々な企業様と接する中で、「転勤したくない」という人材が、ここ数年で明らかに増えて来ている傾向であると感じます。このような状況においては、「転勤したくない」というニーズをどう満たすかは、非常に重要になってきます。その際、「地域限定社員制度」がその最適解でないケースも十分に考えられます。上記でご紹介したような事例も1つのご参考として、改めて自社の配置の考え方・制度の在り方を考えてみると良いでしょう。

 

 

執筆者

小田原 豪司 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

大学で経営学全般を学ぶなか、特に中小企業の「ヒトの問題」に疑問を感じ、新経営サービスの門をたたく。
企業の「目的達成のための人事制度構築」をモットーに、顧客企業にどっぷり入り込むカタチで人事制度策定を支援している。