コロナ禍における社員の「なんとなく調子悪い」に気付く
巷間で「コロナ鬱」という言葉をよく耳にします。鬱といっても、診断名としてのうつ病ではなく、コロナ禍にともなう様々なメンタル不調を(軽度のものも含めて)広く指しているようです。このような不調 ―― 「なんとなく調子悪い」の増加傾向は、働く人の間でも例外ではありません。一橋大学が全国314社の人事担当者を対象に行った調査によると(*1)、約60%の企業が「仕事上のストレスを抱える従業員が増えた」と回答しています。
■ 「なんとなく調子悪い」が会社に及ぼす影響は大きい
社員のメンタル不調が会社に及ぼす影響というと、例えば「休職・退職してしまう」「労災が発生してしまう」といった破局的な事態がイメージされるかもしれません。しかし、当然その前段階で何らかの悪影響が発生しているはずです。
心身不調が原因で休職している状態をアブセンティーズムといいます。この状態では、担当者不在や人員不足による業務の停滞が起こります。一方、心身不調を抱えながら仕事を続けている状態をプレゼンティーズムといいます。この状態では、生産性の低下やミスの増加が起こります。
厚生労働省によると(*2)、これらの悪影響による健康関連総コスト(企業が蒙る損失金額)のうち、アブセンティーズムが占める割合は約4%にすぎません。一方、プレゼンティーズムが占める割合は約78%にのぼります(なお、他を医療費・労災補償等が占めます)。
したがって、事業運営においては、プレゼンティーズム ―― 「調子が悪くて生産性が上がらない」を軽減することが重要になります。最も避けなければならないのは、不調のまま仕事を続けた結果、限界を超えてしまい休職・退職に至るパターンです。そうなる前に、早めに気づいてケアする必要があります。
■ 状態の変化に気付くためには常態を把握する
コロナ禍に伴う就業環境の変化によって、社員は無意識のうちに未経験のストレスに晒されています。ストレスによって心身に様々な反応が出ますが(図1)、これらが「なんとなく調子悪い」という感覚に現れていると考えられます。まずは、各種の心身不調を観察・把握して、ストレスがかかっていると気付いてあげることが重要です。
ストレス反応(やそれによる生産性低下)に気付くためには「普段の様子・・・常態」からの逸脱を「普段と違う・・・状態の変化」として捉えるのがポイントです。例えば、声が小さい・表情が暗い・服装が乱れている・・・といった様子から、何か不調が起きていると知ることができます。
ただし、コロナ禍に伴うテレワークの増加によって、日々顔を合わせて社員の様子(常態・状態)を把握するのが難しくなっています。そのため、例えばオンラインで定期的に1on1ミーティングを実施するなど、意識的に定点観測の機会を設けることが有効です。(オンライン1on1ミーティングについては、過去記事もご参照ください。https://jinji-seido.jp/column/1773/)
一方、社員の仕事ぶりについては、コロナ禍・テレワークとは関係なく日頃から観察できるはずです。例えば、メールへのレスポンスの速さ・提出物のタイミング・会議での発言量・・・といった様子からも、生産性やモチベーションの変化を知ることができます。
Withコロナの就業環境においては、これまで以上に日頃の仕事ぶりをよく観察することに加え、定期的に心身の状態を把握する機会を設けることで、社員の「なんとなく調子悪い」にいち早く気づき、対策を打つことが可能になると言えます。
【出典】
*1:新型コロナウィルス感染症への組織対応に関する緊急調査:第一報 (原ほか, 2020)
http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/admin/ja/pdfs/show/2390
*2:データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン(厚生労働省, 2017)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000171483.pdf