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【本阪】その地域手当はなぜ存在しているか?①

国内に多数拠点や店舗展開がある場合、何等かの基準に応じて地域手当を設けているという企業様もあるでしょう。しかしながら、その地域手当は本当に必要かつ有効な施策になっているのでしょうか。意外と「前からあるから…」等の理由で継続されてきている企業様もあるのではないでしょうか。

諸手当は「目的にかなっているか」と「運用できるか」の二つに留意して考える必要があります。それらを踏まえて今回は、地域手当の主な目的二つとその成り立ち、運用で注意すべき点について整理していきたいと思います。

 

 

1.目的①:生活水準の不公平感を埋めるために設定する

 

地域手当を用意する目的は主に、勤務地によって生じる生活支出の差を埋めて、勤務地間の不公平をなくすための手当としている企業も多いでしょう。

 

広義の生活給的な地域手当における代表的な分類としては、①物価が高い都市部地域、②北海道・東北・北陸など豪雪地帯で暖房費がかさむ地域、③離島や山間部における生活が不便な地域、というような地域に支給されているケースがあるようです(②は寒冷地手当/燃料手当というような名目とするケースが多いかもしれません)。

その他にも様々な目的があろうかと思いますが、①~③のような生活水準面でのサポートという点について、その性質や成り立ち、それぞれの留意点についてみていきましょう。

 

①物価が高いとは何か

「物価」といっても国内で大きく差があるものなのでしょうか。参考統計資料として消費者物価地域差指数*1というものが総務省から公表されています。これを見ると、高いとされる東京・神奈川県と、最下位の宮崎県の差は約8%となっています。

しかしながら、この差は住居費が大きく寄与しているので、他の支出項目すべて東京がトップかというとそういうわけではないようですし、家賃を除けばそこまで大きな差があるとは言えなさそうです。こうしたことを勘案すると「物価」といわれる物差しを参照する意義はあまりないかもしれません。

確からしいことは、土地の値段は明らかに異なりますから住宅や家賃の相場は人口密接地域の方が高いので住居費に差が出やすい、という程度でしょう。そうなると全国に支店があるなら東京や神奈川等に手当を支給するということには多少妥当性はあるかもしれません(家賃補助や社宅制度が地域別で設けられていない場合)。

ただし、都内に勤務していても居住エリアで差がでますので、通勤圏内エリアの家賃相場を参照する、というような何等かの支給基準軸は必要となるでしょう。

 

②豪雪地帯での暖房費とは何か

いわゆるこの寒冷地手当は近年減りつつあるようですが、北海道など雪国では暖房費(灯油代)の支出が多くなる理由から、燃料代として支給されてきたケースが多いようです。また現在もなお、暖房は灯油ストーブを活用する家庭が多いこという実態もあるようです*2

ただ一方で、年々夏の気温が上昇し、夏場にエアコン代がかさむ他の都府県と、その差を明確に説明しきれる金額設定か。慣例的に支給を続けてきた企業様は再考が必要かもしれません。また北海道といっても、札幌の都心部か雪深いエリアか、又住居の造りや広さなど、生活実態は異なるでしょうから一括りに「灯油代がかかって暖房費が高い」とは言い切れない要素もありそうです。

 

先ほどの消費者物価地域差指数の統計においても、北海道は確かに光熱・水道費が平均よりは高いと言えますが、住宅にかかる支出が低いことも見られます。こうしたことも踏まえると、「冬季の暖房費補助だけ」を設定することは、少々バランスが悪いようにも思われます(家賃補助や社宅制度が別途ない場合)。

 

※ただし、冬季中のみ特定地域に赴任してもらう社員に限定して支給するというように、期間・対象者を絞って、「生活環境が変わり一時的に支出が増えることの負担を軽減しスムーズな配置・異動につなげる」という目的であれば、意義はあるでしょう。

 

③離島や山間部の生活不便さとは何か

このような環境では、その生活地域内での移動運搬費用等がかさむことに着目されていると考えられます。離島であれば、通院や買い物、子の通学等で定期的に島外に渡る必要性もあるでしょう。文化的な生活のために、市街に出るにしても交通費がかさむでしょう。また宅配便等も料金が異なるという点もあるでしょうし、公共サービスが高いということもあるかもしれません。

 

こうしたことを鑑みると、利便性が低く生活する労力そのものは都市部に比べてかかる状況かもしれません。一方、こちらも②の寒冷地手当同様に、住居費が安いことも考えられますので、この点も往々にして「離島で大変だから」の妥当さや程度差は、どのような環境にあるか、都心部とどれだけ生活支出や労力が異なるかの検証が必要かもしれません。

 

これらを踏まえると、「地域間の公平性」とは一体何なのか、どの金額なら妥当かを厳密に追求しようとすることは意外とハードルが高いと言えます。また、様々な指標を参考にして支給基準を組み立ても、最後は社員の生活実態によって損得感の度合いに差が出るものですので、「生活の公平性を保障してあげよう」というのはどこまでも難しいものです。

 

 

2.目的②:人材確保・人材マネジメント施策として設定する

 

生活給的な目的①の「生活水準の不公平感を埋める」という目的以外に、「人材確保・人材マネジメント施策として戦略的に設定する」という目的もあるでしょう。

 

地域別の生活水準の実態はさておき、「賃金水準」が都道府県で異なることは、厚生労働省の統計データ等でみても明らかでしょう。また、募集賃金や新卒初任給に地域差があることは求人媒体等を見ても明白です。

例えば、九州の企業が東京に進出しようと考えるとき、九州では採用に問題がなかった賃金水準であっても、東京での採用活動においては競合他社と比較してやや見劣りしてしまい、人材確保が思うように進まないということも考えられます。そういった「人材確保」にフォーカスして、外部競争力を意識しながらその地域の「賃金相場観」を加味した地域手当を設定するケースもあるでしょう。

 

業種業態によっては、東京以外でも採用困難地域や人手確保ができないエリアに地域手当を設定し、その地域での募集水準を引き上げることや、人手不足地域への異動時のメリットと見せる、という企業様も見受けられます。

 

こういった形で「生活保障」というよりも「人材マネジメント施策」として地域手当を戦略的に設置することも目的としては考えられると思います。

 

 

今回は、地域手当の目的についてそれぞれ整理いたしました。「目的は何か?」「目的にかなっているか?」「今も必要か?」を今一度チェックする参考にしていただければと思います。

次回は、地域手当における運用面についてまとめていきたいと思います。

 

(参考)

1 総務省,「小売物価統計調査(構造編)-2018年(平成30年)結果-」,2018

http://www.stat.go.jp/data/kouri/kouzou/pdf/g_2018.pdf

2 札幌市市民まちづくり局市民生活部消費者センター,「家庭用エネルギー消費実態調査報告書」,2017

https://www.city.sapporo.jp/shohi/press_past/documents/20151222pressrelease_1-1.pdf

 

 

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。