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【岸本】彼は本当にA評価でいいのか?

先日、X社(社員数約80名)の評価調整会議(評価のばらつきを調整し、評価ランクを決める場)に臨席する機会がありました。その際、印象に残ったやりとりを今日は紹介したいと思います。

 

人事部長:評価調整後の人事評価点でみると、Y営業課長はA評価の当落線上になります。皆さん、Y営業課長の最終的な評価ランクはどうしましょうか。

 

 ※X社では、調整後の人事評価点を目安に評価ランクを決めている。

  評価ランクはS/A/B+/B/B-/C/D7段階となっている。

 

製造部長:A評価が妥当では?他部門から見ても、彼は今期よくやってくれた。

 

営業部長:上司として彼にはA評価をあげたい。ただ、彼の部下が1件大クレームを起こしている。原因は、当たり前に行うべき指導がY課長からなされていなかったことにある。

 

 開発部長:その点については、営業部長が評価を厳しくつけているし、評価調整の際にも、特別減点という名目で点数を差し引いたので問題ないと思う。

 

 製造部長:点数としてはたしかに当落線上だが、彼の頑張りに報いるためA評価にすべき。

 

<Y課長をA評価とする方向で議論がしばらく続いた後、社長がはじめて発言>

 

社長  :ここまで賛成の意見ばかりだが、本当にA評価でいいのだろうか?たしかに、彼は今期よくやってくれた。それは私も認めている。ただ、課長としてやるべきことができていなかったことも事実。よく頑張ったという理由だけで、他のA評価の社員と同列に考えていいのだろうか。

 

製造部長:社長のご意見は理解できます。ただ、他の多くの課長もY課長と同様に、やるべきことができていない。ただ、彼はきっちり結果を出しています。その点を踏まえると、A評価に値すると考えます。

 

社長  :営業部長はどう思う?

 

営業部長:私も製造部長と同意見です。ただ、A評価という結果だけを伝えるだけでは、彼自身のレベルアップにはつながらないと思います。ですので、フィードバックの際に、私から今後改善すべき点を伝えたうえで、善後策を彼と一緒に考えていきます。

 

社長  :営業部長がそういうスタンスでいてくれるならば、A評価でいこう。営業部長、よろしく頼むよ。

 

いかがでしたでしょうか。手間がかかると感じられた方もおられるかもしれません。もちろん、今回取り上げた評価ランクの決定や、評価の甘辛調整はもっと機械的にやる方が楽で、早いのは事実です。ただ、人事評価の妥当性や効果性を高めるためには、こういった場を持つことも重要であると、私は考えます。

人事評価は運用が肝と言われますが、制度導入後はいかに効率的にオペレーションを回すかに気を取られがちです。それも重要な点ではありますが、人事評価の効果性を高めるために、あえて手間をかけてみてはいかがでしょうか。

執筆者

岸本 耕平 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

「理想をカタチにするコンサルティング」をモットーに、中堅・中小企業の人事評価・賃金制度構築に従事している。見えない人事課題を定量的な分析手法により炙り出す論理的・理論的な制度設計手法に定評がある。