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【森中】人事制度上、「残業」が免除される働き方について考える(2)

(前回を見ていない方は、まず「人事制度上、「残業」が免除される働き方について考える(1)をご覧ください)

 

今回は、「残業が免除される働き方を人事制度上認めた企業の事例(※育児・介護・傷病等の特別な事情による法律上認められた残業免除とは別に)」を簡単に紹介していきたい。

 

ここでまず、多くの経営者・人事担当者の方は「残業が必要なら残業をしてもらえばいいではないか」と、違和感を覚えるのではないだろうか。人手不足のご時世において、大多数の(特に中小規模の)企業において残業時間ゼロというわけにはいかないのが実態である。にもかかわらず、なぜそのような働き方を会社として(特別な事情があるわけでもないのに、残業命令権を放棄してまで)認める必要があるのか。

この点、昨今では働く側の「多様な働き方に対するニーズ」ということも無視できない。筆者のクライアント先A社(地方の中小小売業)の例で見ていきたい。

 

A社では大卒の新入社員を採用したが、採用時に「趣味で音楽活動をやっているので、平日の残業や休日出勤はできない。それでも働けるのであれば入社したい」という具体的な要望があった。会社の実態からすると残業ゼロは到底難しい状況であったが、優秀で期待のもてる学生であったことから、同条件を基本的に受け入れた上で採用するに至った。従来であれば「採用しない」という選択肢もあったが、採用難の時代、新卒社員確保のためにやむを得ないとの判断があったわけである。

 

さて、一般的な例であれば、このときの約束は叶えられずに終わることが多いだろう。入社後すぐは残業無しで仕事ができていても、上司からの急な依頼で少しずつ残業が発生し、段々うやむやになっていく。

しかし、A社では「残業無し」の働き方を一つのコースとして人事制度上明確にし、社内にオープンにした。対象者は当該コースを申請し、会社が承認する形で運用される。原則1年に1回、気が変わればコース替えの申請も可能な仕組みである。とはいえ、「残業無し」コースに希望者が殺到しては組織運営に支障をきたすし、「残業の有り無し」だけで他の処遇条件が全く変わらないとなると、「残業有り」コースの社員から不満が出ることが予想されたため、「残業無し」コースの社員については勤務できる部署や職種を限定したり、処遇面でも一定の差を設けるなど、様々な制度上の工夫を行った。 

 

改めて、A社での取組みのポイントは、「残業無し」の働き方を公式に「制度化」したことにある。中小企業では比較的よく聞く話だが、個別対応では「残業する側」と「残業しない側(できない側)」との間で摩擦が起きやすい。管理者サイドとしては「残業しない側(できない側)」に対してできる限り配慮をするが、「残業する側」からはどうしても不満が出るし、現場を調整するのも容易ではない(必要な時に残業をお願いして断られたりすると、管理者に心的ストレスがかかることも)。A社の発想としては、であるならば、最初から人事制度上明確にしておいたほうが対応しやすい(この人は残業しない働き方のコースだと分かればお互い気をつかわなくてよい)、ということである。

 

とは言え、現実にはA社でもまだまだ課題が多く、「残業有り無し」による人間関係の摩擦もゼロではない。この点、A社では人事制度の変更を機に現場の働き方改革にも着手している。具体的には、「残業有り」「残業無し」の社員が恒常的に存在していることを前提として、その上で柔軟に仕事が回せるようにオペレーションの組み直しを行なっている。経営陣・現場管理者を中心に、「多様な働き方をスタンダードにしていく」という方針を共有しながら取組みを継続することで、確実に成果に結びついていくものと思われる。

 

執筆者

森中 謙介 | 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。初めて人事制度に取り組む中小企業がつまづきやすいポイントを踏まえ、無理なく、確実に運用できるよう、経営者に寄り添ったコンサルティングを旨としている。