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【森中】1人の社員が全社員から評価される多面評価制度事例(1)

今回は多面評価制度について考えてみたい。ご存知のように、上司による評価が一般的な評価制度の運用であるのに対して、多面評価(360度評価とも言われる)では下位者や同僚からの評価が加わり、総合的に評価点が決定される(顧客や取引先など社外からの評価が加わる場合もある)。

 

筆者の経験上、多面評価制度は一般社員(非管理職)から導入を望む声が聞かれるものの(上位者の評価に納得できず、部下からも上位者を評価させてほしいという意見が出る)、制度運用の難しさから実際は導入に至らないケースが多い。労務行政研究所の最新調査でも、企業での多面評価・360度評価の導入率は11.6%と、非常に低い割合となっている(2018年調査)。制度運用が難しい主な理由としては「運用の手間が大きい」「その割に適正な評価結果が得られない」ということが挙げられる。

 

「上司だけの評価では一面的な評価になってしまうから、複数関係者の多面的な視点を加えることでより公正に評価をすることが可能になる」という多面評価制度の趣旨・理念には賛同するものの、現実問題として、上司以外の関係者が本人に対して具体的な情報を基に客観的な評価を行うのはハードルが高いと言わざるを得ない(下位者は上司への評価に際して個人的な感情が入り込みやすいし、そもそも上司の仕事ぶりや能力を総合的に判定するのは力量的に難しい。同僚は対象者の仕事ぶりを十分に判断できるだけの情報を持ち合わせていないケースが多い)。

 

しかし、中には多面評価制度を有効に活用できている例もある。筆者が経験した中で一番印象に残っているのが、社員数70名規模の会社(以下、A社とする)で、1人の社員が自分以外の69人の社員(経営者も含めて)から評価される多面評価制度である。考えられる限り最も難易度が高い仕組みであるが、A社では見事に運用することができており、感覚的には多面評価制度が「企業文化」と言えるレベルにまで定着していた。

 

A社はサービス業であるが、多面評価制度の評価項目は「挨拶、笑顔、言葉遣い」といった基礎的な項目であった。どのように運用していたのか、当時A社の社長と人事責任者から聞いた話から振り返ってみたい(次回に続く)。

 

執筆者

森中 謙介 | 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。初めて人事制度に取り組む中小企業がつまづきやすいポイントを踏まえ、無理なく、確実に運用できるよう、経営者に寄り添ったコンサルティングを旨としている。