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固定残業の「功」「罪」

『大幅アップ!初任給を40万円に』

2024年春、ベースアップや賃上げ、初任給アップ等のニュースがネット上で踊る中、
ひときわ目を引く記事でした。
噂の主は、東証プライムに上場する某企業。比較的賃金が低い小売業界にもかかわらず
積極的な人事施策を打って出たと(その瞬間は)感心したのを覚えています

 

その後、続報が流れます。
『40万円の初任給には、80時間の固定残業代が含まれている。』

皆さまはこのニュースを見て、どう感じられたでしょうか。
「80時間の固定残業なんて、ブラック企業に違いない!」でしょうか。
「とは言え、新卒に月給で40万円を保障するなんて凄い!」でしょうか。

この制度(企業)の詳細は分かりませんので、今回は固定残業の功罪というテーマで
書いてみたいと思います。

 

【罪】
学生を中心に、固定残業代=ブラック企業、というレッテル貼りもあるようですね。
周知の事実として、固定残業そのものは違法ではありません。
固定残業として設定した時間(金額)を明示した上で、
それを超えた場合に正しく計算して時間外手当を支給すれば何ら問題ありません。
(“何ら”という表現は微妙ですので、この後の文章と合わせてご確認ください)
ただ、一般的な(?)ブラック企業では、残業代が法定通り支払われないことが問題となり、それを誤魔化すための手段としての固定残業代を盾にしていることがあります。
法定通りに残業代を計算・支払うことは当たり前として公言しながらも、
 ・時間管理そのものをしない、
 ・時間管理はしているものの、長時間残業に対する措置を取らない、
 ・設定時間以内になるよう圧をかけてタイムカードを押させない、
といったことが常態化していることがあります。

また、残業が少ない人に対して必要のない残業代を払う訳ですから、
過剰な人件費が発生しているという、損益上の問題もあります。

 

では、果たして「功」は何でしょうか?

 

【功】
最も大きなメリットは、労働時間(残業時間)で賃金の多寡が決まるのではなく、
成果・能力(≒評価)で賃金の多寡が決まる可能性が高まることでしょうか。
 ・効率よく仕事を片付け定時で退社する優秀なAさんより、
  効率が悪かったり生活残業化しているBさんの方が賃金が高い
 ・エース級が集まる本社C課の社員よりも、
  「顧客第一」を建前に好きなだけ残業できる現場D課の社員の方が賃金が高い
どこの会社でも起こりうることだと思われます。
それであれば、固定残業時間を設定して全員の固定給を据え置いておき、
あとは人事評価で差がつくという仕組みは非常に公正だと言えます。
(厳密には、時間は時間、評価は評価、賃金の支給根拠そのものが違うのですが)

 

固定残業に限らず、例えば家族手当や住宅手当、年功序列、終身雇用、相対評価、といった一見ネガティブに見える人事関連ワードにも、必ず「功」の部分があります。
決めつけで制度設計を行うと見落とす可能性も有りますので、じっくり検討して制度改定を行ってください。

執筆者

森谷 克也 | 人事戦略研究所 所長

企業の成長を下支えする人事戦略の策定・活用が図れるよう、
経営計画・人事システム・人材育成を一連で考える
人事戦略コンサルタントとして実績を積んでいる。
企業支援においては、①企業風土(社風、経営理念など)を大切にすること、
②中期的視点(業界環境、管理者レベル等)を持つこと、
③そして何よりシンプルで分かりやすいことをモットーとしている。