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まだ「給付金頼み」ではありませんか?―再雇用者の処遇設計を見直す観点

■導入

202541日から、高年齢雇用継続給付金の支給率が変更されました。60歳時点の賃金と比べて再雇用後の賃金が一定水準以下に低下した場合、それまでは賃金の15%を上限に給付されていた給付金の金額が、10%に引き下げられています。

この改定を受け、定年再雇用者の賃金を見直したいというご相談をいただく機会が多くありました。しかし中小企業の場合「対象者が少ないから」「今いる社員の賃上げの優先度の方が高いから」等の理由で、課題を認識しつつも検討を先送りにしているケースが少なくありません。

対応を先送りにしている間にも、新しい支給率が適用される従業員は毎年増えていきます(引き下げは20254月以降に60歳を迎える方から順次適用されるためです)。「対象者が少ないから急がない」という判断は一見妥当と見えるかもしれませんが、人手不足の状況下では逆です。中小企業では、一人ひとりに戦力として働いてもらえるかどうかの影響は大きく、そしてベテランの働きぶりは、処遇に納得しているかどうかで大きく変わるからです。

 

■問題の構造

働き手の不満を引き起こす原因は、給与の額そのものというより「役割の定義が曖昧なまま賃金だけが下がる」ことにあります。会社としての定年再雇用者の立ち位置や役割、任せる業務が区分けできていないと「定年前とほぼ同じ業務をしているのに処遇だけが下がる」状態が生じます。また、従業員目線で「給与を上げたくても打てる手がない」といった不満感にもつながります(当然ながら、同一労働同一賃金の観点で見ても望ましくありません)。

これまでは、給付金の存在によって「賃金の理由付けの曖昧さ」が覆い隠されていたところも多くありました。従業員目線でも、給付金を含めて一定水準の賃金が担保されていることで、再雇用時の賃金水準や、それに対する「理由付けの薄さ」に目が向きにくい構造があったということです。給付金は、不満を表面化しにくくするクッションとして機能していたといえます。

 

支給率が15%から10%に引き下げられたことは、このクッションが薄くなったということです。2024年の厚生労働省の労働政策審議会(雇用保険部会)の報告書では、高年齢雇用継続給付金は「廃止も含め、更に検討を行うべき」との方向性も示されています。今後、給付に頼らない形の処遇設計を通じて従業員の納得感を得る必要性は高まっていきます。

 

■対応方法

それでは、この“クッションが薄くなった状態”に対して、会社は何から手を付けるべきでしょうか。ポイントは「賃金だけ」でなく「理由付け」を含めて設計をすべきということです。

 

1.再雇用者への期待、「位置付け」を明確化する

賃金設計の前に、再雇用者には何をやってもらいたいのか?定年前と何を変え、何を変えないのか?といった再雇用者の「位置づけ」の明確化が必要です。

具体的な観点として、業務内容や責任は定年前の程度を維持するのか、縮小するのか?未経験分野への配置転換を行うのか?正社員時代に管理職であった場合、マネジメントから外れるのか、後進育成や技能継承等の役割を新たに求めるのか?等を検討します。

 

2.役割に応じて、評価を行うかどうかを決める

再雇用者の評価は、求める役割や責任に応じた設計とすることが望ましいでしょう。たとえば重要なプロジェクトを任せる、高い成果創出を求めるといった役割で、その成果に応じた処遇を想定する場合は評価が必要です。目標管理制度が適することもあります。一方、定型業務遂行が中心であれば、勤務態度等の簡易なチェックのみで済ませるのも一案です。

  

3.賃金と役割の見直しをセットで行う

求める役割や責任、そしてその結果や成果をどこまでチェックするか。前二項で整理した「位置づけ」に賃金水準を対応させて、その対応関係を説明できるようにしておくことが、納得感の土台になります。

また、コースを複数設定し選択制とする方法もあります。より大きな役割・成果(それに応じた賃金)を求めるコース、定年後は定型業務中心で負荷を抑えて働きたい(役割の縮小に応じて賃金水準も抑える)コース等を用意し、本人の希望で選ぶ仕組みも考えられます。

実際にはコースに適する職務を用意できるかどうかが実現性の肝になりますし、選択の柔軟性をどこまで設けるかも設計によりますが、「自分で選ぶ」こと自体が納得性の担保にもつながるため、役割の定義・コースと合わせて検討するのも一つの手です。

 

ここで重要なのは「定めた期待役割と実際の職務が一致していること」です。あなたの役割・責任は、定年前と比べて軽度なものに変わります。それに伴って賃金も下げていますと説明があっても、実際の役割や責任が再雇用契約の前後で同じであると、全く意味がありません。

再雇用社員だけでなく、当該再雇用社員をマネジメントする管理職も含め、新しい役割期待への理解浸透を進めることが肝要です。

 

 ■まとめ

ここまで、給付率の縮小を切り口に再雇用者の処遇設計を考えてきました。 給付金の支給額変更は、再雇用者の賃金設計を見直す好機です。これまでは、給付金というクッションが処遇の理由付けの曖昧さを覆い隠してきました。しかし冒頭で触れた厚労省の報告書の通り、高年齢雇用継続給付金は今後「廃止も含め、更に検討を行うべき」という方向性が示されています。公的給付を前提にした処遇設計は、土台ごと見直しを迫られつつあります。 まずは自社の再雇用者を思い浮かべてみてください。その方々の役割と賃金の対応関係は、合理的に説明できますか? その問いをもって、自社の制度を一度点検することをおすすめします。

執筆者

増田 あかり | 人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、一社目は製造業で生産管理を経験。
前職では大学生の就職支援に従事する中、人と仕事、人と組織の課題に向き合うことの難しさとやりがいを実感。
より中長期的な視点で組織と人の成長を支援したいという想いから新経営サービスに入社、顧客の想いに寄り添うコンサルタントを目指し日々活動している。