人事制度コラム

人事制度コラム

ジョブリターン制度

コロナ禍の令和2年に約1.18倍まで落ち込んだ有効求人倍率は、令和4年に1.23倍、令和5年3月には1.32倍にまで上昇しています。
コロナ禍の直前は、最高で1.60倍という高い数値でしたが、お客様からは「コロナ前よりも人が採れない」という声をよく耳にします。

採用手法として広がりを見せているのが、ジョブリターン制度です。カムバック制度、アルムナイ制度と言われたりもします。
呼び名は様々であるものの、人事制度においては、現役世代の再雇用制度を指します。定年退職者以外の再雇用制度と言い換えられるでしょうか。

導入することのデメリットを記載しているWebサイトを多く見かけます。例えば、「社員が退職するハードルが下がってしまう」「既存社員の不満を招く」「同じような働きをしてくれるとは限らない」といったところですが、企業人事の現場で考えると、注意しておけば回避できるものばかりですので、デメリットはそれほど問題になりません。ぜひ導入を検討してみてください。

こういった制度を導入する際は、目的を明確にすることが大切です。
「人手不足の解消」といった漠然とした目的にならないよう注意します。「どんな人材に戻ってほしいか」という観点で目的が明確になれば良いでしょう。

 

目的1:家庭の事情による退職者の再雇用
「出産や育児、介護、配偶者の転勤といった家庭事情で退職した元社員に適用」という設定条件は最も多く見かけます。退職理由としては「のっぴきならない」と言えますので、導入目的としては必須と言えるでしょう。
ただし、理想は「辞めないで済む環境づくり」です。出産や育児、介護については、育児介護休業法における法定日数・期間以上に休暇・休業・時短勤務を拡大したり、勤務地限定社員制度を導入したりすることで解消する場合も多いため、併せて検討したいところです。

 

目的2:キャリアアップした社員の再雇用
「キャリアアップを目的とした学業や留学、転職のために退職した元社員に適用」という設定条件も良いでしょう。実際に、仕事量を大きく減らして勉強したり、他社でしか経験できなかったりするスキルもあります。多くの場合は、自社では提供できない成長環境だと思われますので、導入目的としては有効でしょう。

 

目的3:若気の至りで退職した社員の再雇用
3年3割。新卒採用における離職率を典型的に表した言葉であることは周知の事実です。1年目は仕事を覚えるのに必死であり、2年目は少し慣れて一人でできる仕事が増え充実感があるものの、3年目に適度な刺激がなければマンネリを感じ辞めてしまう、と筆者は分析しています。
社会人経験の浅い若手社員は、どうしても隣の芝生が青く見えてしまい、「見た目ほど青くはない」という先輩社員の忠告を聞けず、退職に至ってしまうケースも多いのではないでしょうか。結果的に芝生が青くなかった場合、出戻りを受け入れる体制を作っておくことは重要であり、採用難の昨今、非常に貴重な人材調達ツールとなりえます。

 

以上のように、再雇用の対象となる人材像を明確にした上で、①離職理由、②勤続年数や年齢、退職後の経過年数、③選考方法、④リハビリ期間(試用期間)、⑤処遇の条件、等を設定してください。

 

以下は蛇足です。

アルムナイとは、「卒業生」という意味だそうです。卒業とは、一つの「業」を「完了」することを指しますが、多くの退職者は業を完了したと言えなさそうです。
カムバックとは、デジタル大辞林によると、「引退したり、勢いの衰えていたりしたものが、もとの地位・状態に復帰すること。返り咲くこと。」を指すようです。前述の目的を踏まえると、少し不釣り合いな気がします。
ジョブリターンは和製英語ですので、意味を推察するのが難しいですが、感覚的にはどんな目的にも合致し、無難でしっくりきます。

帝人株式会社では、「ハローアゲイン制度」と呼んでいるようです。英語は得意ではありませんが、「また会えて嬉しい」といった意味合いでしょうか。
1995年にリリースされた某音楽ユニットの曲名では、「Hello, Again 〜昔からある場所〜」となっています。
ハローアゲイン制度、素晴らしいネーミングだと感じました。

執筆者

森谷 克也 | 人事戦略研究所 所長

企業の成長を下支えする人事戦略の策定・活用が図れるよう、
経営計画・人事システム・人材育成を一連で考える
人事戦略コンサルタントとして実績を積んでいる。
企業支援においては、①企業風土(社風、経営理念など)を大切にすること、
②中期的視点(業界環境、管理者レベル等)を持つこと、
③そして何よりシンプルで分かりやすいことをモットーとしている。