役職定年 再考
1:役職定年制の現状
最近、人事制度改定のご支援をしていると、高確率で検討テーマとなるのが役職定年です。
データによると、2022年の調査において導入している企業は29.1%(労政時報4039号)となっており、2010年の調査から大きく増えたり減ったりする状況にはありません。にもかかわらず、再検討を迫られている背景は何でしょうか。
役職定年制度が導入されだしたのは、定年が55歳から60歳(努力義務)となった1980年代です。昭和も後半になって平均寿命が大きく上昇し、加えて団塊世代(1947~1950年生まれ)の大量定年が見え始めた時代であり、「定年は延長。ただし、高年齢者の賃金が高止まりしないようにする。」という流れの中、55歳以降の役職定年や昇給ストップ・ダウンが流行りました。バブル崩壊のタイミングでもあり、コストダウンの意味合いも大きかったと思われます。
そして、2013年には65歳までの雇用延長が実質的に義務化され、2021年には70歳までの雇用延長が努力義務化されました。雇用する年数が10年も伸び、約30年の時を経て再び議論の余地がでてきたと考えられます。
課長クラスは55歳くらいで役職定年になっていることが多いようですが(同、労政時報4039号)、それから15年もの間“元課長”として会社で過ごすことになります。まだまだ現役世代と言える年齢であり、モチベーションの維持・向上といった観点では難しさがあります。
このような状況で何を議論すべきでしょうか。
2:役職定年制検討のポイント
一般論を簡単に整理しておきます。
役職定年には、①体(てい)よく降職させることができる、②中堅・若手層にポストが空くことをアピールできる、といったメリットがある一方、③全員一律で役職定年させなければ不満が大きくなる、といったデメリットがあります。
本来、役職定年などというものは必要なく、組織の状況と役職者の働きぶりを踏まえて人ごとに降職させるタイミングを考えればよいのですが、①のメリットを上手く活用したいという企業が多いようですね。
役職定年にあたって最も苦慮するのが、「定年後に何をやってもらうか」ではないでしょうか。役職定年後の処遇は、大きく3パターンが考えられます。
(1)役職を降り、下位職の仕事をする
(2)経験を活かし、特別なミッションを遂行する
(3)役職を継続する
(1)は、最もオーソドックスな処遇です。役職定年後の職名・等級・賃金水準・配属部署をどうするかは様々ですが、多くの企業が処遇の受け皿としています。
(2)は、例えばプロジェクトや室などで責任者として一定の権限・責任をもち、社内の重要ミッション(改革・改善など)に取り組みます。理想的な処遇と言えますが、社内に多くの受け皿がないことがネックとなります。
(3)を役職定年後の受け皿とするか否かは検討のしどころです。
役職定年後の処遇は人により変えたい、というのが正直なところだと思います。仮に、「後任の適格者が不在であれば継続することがある」と規定した場合、役職者は「なら後任を育成しなければ…」という考えに至ってもおかしくはありません。あと1年待てば部長ポストが空き、後任として想定しているが…といったこともあるでしょう。ルールや規程で縛るには限界がありそうです。
3:役職定年制をうまく運用するコツとは
顧客企業のA社では、人により処遇を変えるための仕組み化を行いました。
役職定年後の受け皿は上記(1)~(3)であると明確にしておき、役職定年の数年前に“何ができるか”の能力・実績の棚卸を行った上で本人の志向を確認し、数年間をかけて相談しながら終盤のキャリアを模索します。
こうしておけば、本人は役職を継続できるか否かの理由が明確になりますし、それが明確になれば「人によって異なるのは不公平だ」という不満も減ります。また、例え(1)に落ち着いたとしても、自身の強みを生かして元役職者として活躍できる可能性が高まり、一律に賃金がダウンするようなこともなく、役職定年後も遣り甲斐を持って働くことができます。
ご興味のある企業はご一報ください。