人事制度改定は企業の器量が試される
人事制度改定の目的として意外と多いのは、
「社員の実力と賃金に乖離がある。リセットしたい」
というものです。
・例えば、人手不足の中、自社本来の賃金水準より高い社員を採用したが、期待していた活躍はしなかった。
・例えば、最盛期は一世を風靡した実力者であったが、今はその技術も陳腐化している。
・例えば、むかし取引先のコネで入社したが、あまり仕事に前向きだとは言えない。
・結果、人件費が高止まりしており、優秀な社員に振り向ける人件費に乏しい。
上記の“例えば”が少数であれば「どこの企業でもあること」と言えるのですが、その人数が一定を超えると組織に不公平感が漂い始め、風土が悪化し、生産性の低下や社員の離職につながります。
本来は降格制度を正しく運用すれば良いのですが、日本企業で降格が運用されることは稀です。
労政時報4036号(2022年6月10日)によれば、回答した111社において、過去3年間で実際に降格を行った企業は3社に1社(33.3%)。その降格を行った企業においても、過去3年での降格者はたった1名というのが最頻値、となっています。
降格に対するハードルが高い日本企業において、上記のような問題が発生した場合の解決手段の1つが人事制度改定というのは理解できます。
ただし、この状況まで放置していた会社に責任がないとは言えません。手段としては致し方なしだと言えるものの、誠意と覚悟をもって人事制度設計および制度移行を行っていただきたいと思います。
人事制度改定の手順を簡略化して述べると、
①全く新たな等級制度を構築する。具体的には、等級の数を変え、等級の定義を変え、場合によっては等級定義の対象(いわゆる職能、役割、職務)を変更する。
②新たな等級制度に基づき、新しい賃金体系を構築する。この際、例えば年齢給が存在するならそれを廃止するなどできればベター。
③新たな等級定義に基づき社員を再格付けする。結果、“賃金増”“賃金維持”“賃金減”となる社員が発生する。
④“賃金減”となる社員について、一定期間は賃金を補填して維持し、しかるべき期間を経て減額する(激減緩和措置)。
※永遠に補填する方法もありますが、前述の通り問題を設定しているため、今回は選択肢から排除
といった流れになります。
人事制度の移行措置として④はよく検討される手段ですが、これを当たり前として考えることは、企業倫理の問題と言えなくはありません。
対象となる社員が「このまま働けば、50歳でこれくらいの給与、退職金はこれくらいなので、こんな生活水準」といった計算をして働いているところ、企業は急に梯子を外すことになります。
やはりこれは、慎重に議論をし、誠意と覚悟をもって行うべき措置です。
とは言え、永遠に賃金を補填するとなると、本来“賃金減”となる社員に配慮することはできますが、“より成果を上げている社員に対し公正さを欠いた人事制度”を継続することになりますので、これが正だとも言えません。
人事制度改定は、企業の器量が試される事案です。
ぜひ慎重な対応をお願いしたいと思います。