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職種別の賃金体系にすることの意義

近年、「ジョブ型」という言葉がよく出てくるようになりました。その流れの中で、職種ごとでの専門性を高めるようなキャリアを用意する企業も増えて来ていると感じます。 

 

職種ごとでの専門性を高めるようなキャリアを希望するような人材は、「会社への帰属意識」よりも「その仕事(職種)に対する愛着」のほうが、一般的には高くなりがちです。それを考慮すると、その職種における世間の賃金相場というのは重要になってきます。

職種ごとに世間の賃金相場が違う、というのは、人事に携わってこられた方であれば肌感覚としてもすでにご存じの方も多いと思うのですが、平均年収だけに目が行き、「職種ごとの昇給カーブの違い」が盲点となるケースもあります。具体例を挙げてみます。

 

ご支援先のある製造業の企業様において、大型トラックのドライバーを抱えておられました。しかし、若手のドライバーについて、採用ができない・定着しないという問題を抱えておられました。

ご支援前の賃金制度は全職種共通の制度となっていたのですが、制度改定に伴い、大型トラックのドライバーの賃金制度を他の職種とは異なる体系としました。その根拠として活用したデータが、以下の職種別の年収データです。

令和4年賃金構造基本統計調査

出所:「令和4年賃金構造基本統計調査」(※弊社独自の方法にてデータを加工しグラフ化)

賃金構造基本統計調査 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp)

 

それぞれの平均年収の水準自体は、製造業503万円、大型ドライバー477万円とそこまで大きな差はありません。しかし、賃金カーブを見ると、大型ドライバーでは、「若年層の内から水準が高いが、上昇はゆるやか」という特徴があります。

先ほど挙げた企業様においては、どの職種もこの製造業平均に近いような賃金カーブとなっていました。そのため、ドライバー職については、「若手社員にとっては相場より低い」「高年齢の社員にとっては相場より高い」という状況となり、若手の採用・定着上の問題の原因の1つとなっていたと言えるでしょう。そこで、制度改定後のドライバーの賃金体系については、他の職種と比較して、「最初から一定以上の水準とするが、昇給カーブはやや抑え目」という形へと改定しました。

このように、職種別の賃金を検討する場合は、平均の水準だけでなく、上がり方も確認しておかなければ、せっかく職種別の賃金制度としても、上手く機能しなくなってしまいます。

 

職種別の賃金とするのは、上手く機能すれば非常に有効となりえます。職種別の賃金にする場合のメリット・デメリットを挙げると、以下のように整理できます。

 

【職種別の賃金体系とするメリット・デメリット】

職種別の賃金体系とするメリット・デメリット

 

上記を踏まえ、デメリットが強く出ない状況であれば、職種別の賃金体系を積極的に検討してみても良いでしょう。特に、デメリットの2点目に記載の通り、職種間の異動は行いにくくなるため、「職種別採用」かつ「異動は基本的にはない」というのは前提として必須になってくるでしょう。

 

職種別の賃金体系は、上手く機能すれば有効な人事施策の1つとなりえます。日本企業においては、これまで全く検討してこなかったという企業様も多いのではないでしょうか。改めて是非について検討してみるきっかけとしていただければ幸いです。