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【小田原】見せ方や説明次第で印象は変わる。「最低保証の賞与」を通じて感じたこと

過去、ご支援先の企業で、「赤字でも賞与を出すのか」というのが議論となったことがある。今回は、その際に感じたことを記したい。

 

一般的に、賞与には「生活保障」と「利益還元」の側面がある。日本では「生活保障」の側面が比較的強いとも言えるため、冒頭のような問いが議論の対象となることは、筆者も何度か経験してきた。

 

今回紹介するご支援先の中堅規模の企業では、賞与原資を「営業利益×○%」と言った形としつつ、年間で「月給×1か月分」の賞与原資は最低でも保証していた。これまでは、この保障をしても赤字になるようなことはまず起きないような業績状況であったが、近年の業界の縮小傾向もあり、「月給×1か月分」の賞与原資を必ずしも保証するのか、ということが議論となった。

社長を含めた経営陣で議論を行ったが、「①内部留保もあるので、単年赤字であっても、よほどの悪い状況でない限りは最低保証1か月分を設定して出すべき」という意見と「②赤字にならない範囲内においてのみ、1か月分を保証するべき」という意見で割れることとなった。

①を支持する側の意見としては、「赤字となる可能性は高くなく、社員への安心感を優先すべきではないか。本当に出せない状況の時は、ルール関係なく出せない状況を社員に説明して理解してもらうことで対応すべき」というものだった。一方、②を支持する側の意見としては、「どのような状況だと賞与出ないのかを、あらかじめ社員に明確に示してしておくのが誠実なのではないか。その際、明確に線引きできるとすれば、赤字にならないというラインの設定になるだろう」というものであった。いずれの意見でも共通するのは、「会社の存続のために必要なお金は残しつつ、社員への安心感を与えたい、誠実さを見せたい」というものだと感じた。

最終的には、①を採用した(賞与が出ないことがあるという可能性についても言及)。その上で、②のような検討を行ったことも社員に周知し、「会社の存続が1番重要なので、賞与が出ないことが絶対にないわけではない。ただし、極めて危機的な状況を除いて、会社としてはできる限り保証しようというスタンスのため①となっている。会社と社員が一丸となって業績を向上させていきたい」といった趣旨のことを改めて説明する形とした。

 社員への全体説明後、社員アンケートを取得した。全体的な結果としては、「賞与が出ないことがある」という言及を今回初めて明確に行ったにもかかわらず、「業績が低迷気味の状況でも、会社としてなるべく賞与を担保しようとしてくれていることが分かってよかった」という趣旨の意見が多かった。恐らく、業績悪化時には賞与は出すのは難しいのでは、と社員も感じていたのだろう(大企業等では「最低保証」に対する認識が違うため、こうはいかないとは思う)。

 一見、社員にとって不利になるように見える施策であっても、それに対する会社の想いを十分に持っていたり、その説明を尽くすことで、社員からの納得を得られることもあると感じた事例であり、その重要性を改めて感じさせられた。

執筆者

小田原 豪司 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

大学で経営学全般を学ぶなか、特に中小企業の「ヒトの問題」に疑問を感じ、新経営サービスの門をたたく。
企業の「目的達成のための人事制度構築」をモットーに、顧客企業にどっぷり入り込むカタチで人事制度策定を支援している。