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【本阪】オンボーディング施策の必要性

近年、転職も当たり前となり、会社組織で社員のうちに占める中途採用者の割合も多くなっています。そうした中、最近はオンボーディングという言葉をよく耳にするかもしれません。今回は、オンボーディング施策について簡単に紹介します。

 

■オンボーディング施策の効果と重要性

オンボーディングとは、「船に乗せる(on-board)」から派生して出来ている言葉といわれています。新しく入社する社員を、組織という船に上手く乗せていく(=適応させていく)…という意味合いから作られた言葉です。

 

エン・ジャパンが実施した「『中途入社者のオンボーディング』と『入社後活躍』 に関する調査・分析」(*1)の結果によると、このオンボーディング施策が効果的にできている会社であるほど、「定着率」「パフォーマンス」が高くなると報告されています。

ただし、そうしたオンボーディング施策に力を入れている企業は41%と半数に満たないという結果になっています。そうした背景には、中途採用者は「即戦力」だから、そこまで手を施さなくてもよいだろう、という潜在的思考から来るものかもしれません。

 

しかし、人材を採用するには労力も費用もそれなりに投じているはずです。それにもかかわらず、たったの12年で辞められてしまっては、そうした費用の回収もできません。また、中途採用者本人も、組織に馴染めず力が発揮できずに辞めることとなり、不本意な側面もあるでしょう。

そういった会社側・社員側の双方にとって不幸な状況にならないためにも、オンボーディング施策は重要といえるでしょう。

 

■オンボーディングの機能

オンボーディングには、インフォーム行動・ウェルカム行動・ガイド行動の3つの機能があると言われています。(*2)

 

① インフォーム行動(以下3つに分類)

(ア)コミュニケーション(会社の情報をパンフレット・書面等によって伝えるワンウェイコミュニケーション、上司や同僚とのツーウェイコミュニケーションを図る)
例:上司と質疑応答できる時間を月1回設定する・・・

(イ)リソース(利用可能な道具や援助を提供する)
例:必要な場所、道具を与える/社内イントラネットの使い方・ホットラインの使い方を説明する/社内用語等の用語集を与える/社内重要人物の名前と連絡先リストを提供する・・・

(ウ)トレーニングプログラム
例:動画教育/各部署・施設の仕事見学日を作る/OJTプログラムを受けさせる/複数の同僚の仕事に同行させる日を設定する…

 

② ウェルカム行動(歓迎、同僚などと顔合わせによって感情面・人間関係構築のサポート)

例:上司からの個人的な歓迎メール等メッセージ/歓迎ランチ会/歓迎道具一式・会社のグッズを送る・・・

 

③ ガイド行動(身近に何でも相談できるガイド役を設定する)

例:質問があれば連絡・相談ができる個人(メンター)を割り当てる、同僚をバディとして割り当てる・・・

 

経験者である中途採用者にトレーニングプログラムが必要だろうか、と疑問に思う中小企業経営者・人事担当者もいるでしょう。しかし、仮に前職と同じ職種であるとはいえ、仕事の進め方が異なる場合や、求められる知識範囲も多少異なる場合があります。また、中途採用者であるが故、前職での「型」を持っている場合もあります。そうした外部の良い方法を取り入れて仕事を推進することも中途採用者には期待しているわけですが、いままでの型に固執するのではなく、自社の方法も認識した上で、新しい方法を見出して活躍してほしいものです。

 

そのため、学びなおしの期間を設けることも、早く高いパフォーマンスを発揮してもらうために重要です。事前の準備として、そうした教育プログラムを作ることや、また現場・受け入れ側への教育も重要です。

その他に、入社後定期的に上司や人事との面談を実施するなど、一定期間のサポートも効果的でしょう。

 

また、別の視点となりますが、中途採用者側の意識・姿勢も重要です。例えば、前職ではこの方法が当たり前であって、このやり方はおかしい…など、プロパー社員が築いてきたことや会社の風土を否定しては、信頼関係の構築が上手くできません。そういった姿勢から社内で衝突を起こし、組織全体の生産性が悪くなることは起こり得るものです。

だからこそ、現場と新入社員の中立的立場になる人事担当が介入しながら、上手く組織になじめる体制構築を行っていくことに意義があるでしょう。

 

■できることから取り組むことが重要

人材は重要な資源の一つです。そして、それに投じている人件費、採用費も大きいものです。「オンボーディング施策なんて、やっている余裕はない」と最初からあきらめてはもったいないことです。なぜなら、オンボーディング施策は高額な費用が必要になるものではなく、今からでも実行できるからです。

 

本記事に記載していることが施策のすべてではありませんが、いくつか出来ることを考え実践してみてはいかがでしょうか。

例えば、会社理解を深めてもらうため仕事見学日&質問会を設定する、人事制度を説明して評価基準を理解してもらう機会を設ける(インフォーム行動)、多様な部署メンバーとの交流ランチ会を設定する(ウェルカム行動)、メンターを任命する(ガイド行動)、3ヶ月ごとに面談機会を設けて何か困りごとはないかヒアリングをする/その面談シートを作る…など、可能なことからプログラム化して、組織の活力を最大にできる工夫に目を向けてみはいかがでしょうか。

 

【参考URL

*1:エン・ジャパン、「『中途入社者のオンボーディング』と『入社後活躍』に関する調査・分析」https://corp.en-japan.com/success/24704.html

 

【参考文献】

*2:尾形真実哉、『組織になじませる力―オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』、アルク出版、2022

 

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。