【岡本】社員へ成長を促す人事制度設計_経験による成長編
今回は社員を成長させる為の要素の一つである『経験』をテーマに、社内で取り組める人事施策をご紹介したいと思います。
人の成長において『経験』が重要であると言われています。例えば『コルブの経験学習モデル』では、人は経験したことを振り返り、経験から学ぶとし、具体的経験、内省的観察、抽象的概念化、能動的実験の4つのプロセスを循環させることで成長すると考えられています。また、『7・2・1の法則』では成長要因として自分自身の経験が7割を占めているとし、経験が成長において重要であると考えられています。
例えば、ジョブローテーション制度は、この『経験』を意図的に行うための一つの手段と捉えることができます。定期的な人事異動を行うことで、これまでと異なる業務機会を社員へ提供することが可能であり、新たな経験を積ませる方法としては理想的な制度と言えるでしょう。実際にジョブローテーション制度の導入率を調査した結果では、企業規模を問わなければ平均で53.1%の企業が導入しています。(※1)
ただし、ジョブローテーション制度をうまく機能させるには現場への負担を考慮する必要があります。ジョブローテーションを実行することで、業務遂行能力が成熟した社員が異動し、代わりに未経験の社員が異動してくる訳ですから、現場としては一時的に業務遂行能力が大きく低下することになります。そして、これを嫌う上司は、部下の放出を渋り、結果としてジョブローテーションが上手く機能しなくなってしまいます。
特に中小企業においてはこの負担の大きさから制度が上手く機能しない場合も少なくありません。先ほどの調査データにおいても300人未満の企業においてはジョブローテーション制度を導入しているのは37.3%と平均と比較すると大きく減少しています。
では中小企業においてはどのような方法が考えられるのでしょうか。ここでは現場への負担を抑えつつ、社員へ新たな業務機会を提供する方法を3つ紹介します。
①権限移譲
部署や課内の業務範囲内で権限移譲を行うことで、業務経験を積ませることができます。プロジェクトリーダーへの任命や業務の担当範囲拡大など現能力よりも高いレベルの業務を経験させることで、視野の広がりや気付き・学びを得る機会となります。
②兼務やプロジェクト
業務兼務やプロジェクト発足によって元々の担当業務への影響はなく、新たな業務経験を積むことができます。ただし、社員への負担が大きくなる為、周囲からのサポートや事前に対象者へしっかりと目的を説明し、理解を得た状態で実施することが望ましいでしょう。
③対象者限定のジョブローテーション
幹部候補人材など少数に絞ってジョブローテーションを行う方法です。全社的に行うよりも影響範囲も小さい為、現場への負担も抑えつつ、新たな業務経験をしっかりと積ませることができます。また、モデルケースとして成功すれば社内に対してジョブローテーションを促進するきっかけとなることが期待されます。
以上、『経験』をテーマに新たな業務経験を積む方法としてジョブローテーション制度や中小企業で運用しやすい手法を紹介しました。企業規模や業種によっては馴染まない場合もあるかもしれませんが、ご紹介した内容を参考に社員を成長させる為の方法を検討されてはいかがでしょうか。
※1 参考:2017年 企業の転勤の実態に関する調査 労働政策研究所・労働機構