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【本阪】アンコンシャスバイアスと採用・配置・育成

令和4年度、育児・介護休業法の改正(制度見直し、産後パパ育休の創設など)や、女性活躍推進法の「一般事業主行動計画の策定・届出義務およびその周知・啓発」に関して常用労働者数101人~300人以下の事業主も義務化となるなど、「働く人材の多様化」に合わせて、様々な法律の見直しがなされ、施行される年となっている。

 

唐突だが、筆者は女性であるものの「女性活躍」や、「女性の管理職比率云々」といったワードに以前から違和感を抱いていた。なぜなら、「社会で活躍したいと思わない女性もいる。ましてや、管理職になりたいと思う女性など、そう多くはない。外圧をかけて女性管理職比率を上げるなどナンセンス」と思っていたからである。

 

このような考えに、公にできずとも同意する部分もあるのではないだろうか。

しかし、冷静に考えると本当にそうか。

 

・管理職になりたくない女性が多いは、本当か?

・なりたくないと思う女性も、“管理職は男性がなるべき”と思い込み言い聞かせているだけでは?

 

…など、真偽不明な点はある。

仮に“管理職になりたくない女性が多いことは、統計データ上明らか”だったとしても、“その会社”や“その人”など、個にフォーカスした時、その傾向が当てはまらないだろう。それにもかかわらず、以前の私は、私自身の知見から無意識にそう思って、それを一般論として考えていたのである。こういった無意識の偏見・思い込みを“アンコンシャスバイアス”と呼ぶ。

 

アンコンシャスバイアスとは

アンコンシャスバイアスとは、「アンコンシャス(unconscious)=無意識」と「バイアス(bias)=偏見」と構成されるように、「無意識に勝手に思い込む・偏見」という意味になる。

アンコンシャスバイアスの中にも、いくつか分類があるが、人事評価制度の研修でもよく出る“ハロー効果(=ある対象を評価する時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のこと)”もその一つにあたる。いわゆる、認知バイアスである。

 

昨今、この“アンコンシャスバイアス”というキーワードがよく出てきているのは、特にダイバーシティ&インクルージョンの必要性が問われだしたことが背景にある。それと同時に2010年代から大手IT企業のGoogleが「Unconscious Bias @ Work」(*1)という名をつけて研修に取り組み始めたことが、時流にも影響を与えている。

 

アンコンシャスバイアスの実態

パーソル総合研究所が2020年に実施した「マネジメントにおけるアンコンシャス・バイアス測定調査」(*2)によると、マネジメント職登用において、他の条件が同じであっても、女性名の方が男性名よりも8.9ポイント登用意向が下がることが分かった(登用意向は女性名で47.8%、男性名で56.7%)。

また、中途採用において、他の条件が同じであっても、女性名の方が男性名よりも11.3ポイント採用率がことが分かった(採用率は女性名で51.0%、男性名で62.3%)

やはり性別という属性によって、無意識に差が生まれている状況もあり得るようである。

 

アンコンシャスバイアスの問題=“社員や組織の可能性”をつぶしていないか?

アンコンシャスバイアスがあること自体は、人間である以上仕方がない。思考のクセをゼロにすることや、フラットに偏見を持たないようにすることは不可能である。

また、「無意識の偏見・思い込み」によって、物事を迅速に判断する高速思考を可能にしているという側面もある。そうした無意識の偏見・思い込みが、「当たっている」ことも多くあるし、瞬時に判断しリスクを回避することに役立ってきたかもしれない。そのため、アンコンシャスバイアス自体に良い・悪いもない。

 

問題があるとしたら、多様な価値観・人材が溢れる時代に「経営者や社員の勝手な思い込みや偏見からくる“発言・行動・選択”で、社員や組織の“可能性”をつぶしかねない」ということである。

 

例えば、採用/配置/育成など人材マネジメント施策の中で以下のようなケースがないだろうか。

 

  • “当社は、体育会系出身”の“男性”が合うと決めつけ、採用の入り口を狭めて結果的に人材確保ができない(本当は、目標達成志向、素直さ、執着心…等が自社に合う人材要件であるかもしれない)
  • 求人への応募者に対して、“前職での経験や高い学歴、語学力”に魅力を感じ、面談では自分が思う理想的な回答が得られるような質問ばかり行い、それをもって“合格”と判定し雇い入れる。しかし、結果的に自社にアンマッチな人材を採用してしまっている
  • 昇進において、“子育て中の女性にこのポストは荷が重い”と決めつけ推薦を行わず、個人や組織の成長の機会をつぶしている
  • 育成において、“高年齢社員は新しい技術の習得や成長意欲がない”と決めつけ、学びの機会や評価のフィードバックなどを疎かにして、却って組織の活力を下げている
  • “うちの男性社員は育休をとらない”と決めつけ、環境整備改善に目を向けず、知らぬ間に不満が溜まっている

 

…など、無意識の偏見からつながる選択が、社員の能力を発揮する可能性をつぶし、気付かぬうちに組織全体に悪影響を与えているかもしれない。

冒頭にあげた「女性管理職比率」の例は、会社によっては無理に改善が必要ない指標かもしれない。しかし、もし個の力の発揮や、組織の成長・革新に制限をかける意思決定を“無意識に行っている結果かもしれない”と思うなら、それは会社にとって改善すべき課題だろう。

 

労働人口の減少、働く人材・ライフスタイルや価値観の多様化、人生100年時代の昨今…性別・年齢・属性・出自など表層的な偏見にとらわれず、「多様な人材が“真に”適材適所で活躍できる組織づくり」を目指す必要がある。それによって、多様な人材同士から生まれる新しい価値の創造というポジティブな効果を生む効果も狙える。

ただそれ以上に留意すべき点は、今までのような画一的な「会社に一生尽くす、上昇志向に満ちた男性サラリーマン像」の獲得が量的に難しくなっている点である。そうした中で、人材確保施策として「多様な人材が“真に”適材適所で活躍できる組織づくり」が求められるからでもある。

 

そのためにも、“自身がもつ偏見・思い込み”を認知することはもちろんのこと、 “どうすれば偏見に陥らず判断できるだろうか”“本当の判断軸は何か”“正しい判断をするためには、どのような情報を取り、何に留意すればよいか”という、問いや対策の検討を、経営陣のみならず、社員全体で持つことが、真に「多様な社員が活躍し、成長する企業」につながるだろう。

 

【参考】

*1:Google,「Google re:Work – ガイド: 無意識の偏見に意識を向ける(rework.withgoogle.com)」2022412日)

 

*2: パーソル総合研究所、「マネジメントにおけるアンコンシャス・バイアス測定調査」2022412日)

 

【参考文献】

守屋智敬、『「アンコンシャスバイアスマネジメント」最高のリーダーは自分を信じない』、かんき出版、2019

 

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。