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【森中】人事制度改革の1丁目1番地

新年明けましておめでとうございます。

本年も当ブログをどうぞよろしくお願いいたします。

 

さて、年末年始から春先までは総務・人事担当者にとっては総じて繁忙期と言える時期に突入します。人事制度の変更は4月1日付で行われるケースが多いため、企業によっては、昨年から取り掛かっていた新人事制度の導入を控えて、社員説明会等をはじめるのが年明け以降というところでしょうか。あるいは、更に1年後の人事制度改革を目標にして新たな社内PJが始動するのも年明けから春先にかけての時期になります。

 

ここ数年、コロナ禍を契機として、企業の人事制度を取り巻く環境が大きく変化しました。テレワークの急増による働き方改革、ジョブ型人事制度への転換、定年延長への対応、HRテック等の最新ITシステム(AI・クラウド活用)の導入など、最新の人事テーマへの対応を多くの企業が余儀なくされています。

 

2022年以後もこの動きは止まることはなく、より加速していきます。10年、20年に一度の大規模な人事制度改革に着手する企業が規模の大小を問わず出てくることと思われますが、ここで改めて、人事制度改革に着手する前に最も重要な「1丁目1番地」について確認をしておきましょう。

 

昨年ですが、経営者の方からのこんな相談が筆者の下に寄せられました。

 

「全社的にテレワークに移行したが、社員の仕事ぶりが見えにくくなり、これまで自社で独自に運用していた人事評価制度が使いにくく感じるようになった。そこで、最近システム会社から提案のあった、“HRテックを用いたジョブ型人事評価(テレワーク対応)”という仕組みを導入したが、運用が上手くいかず、社員の満足度が下がっている」という内容です。

 

今回の相談に対しては簡単なアドバイスのみで、具体的な仕事にはなりませんでしたが、経営者の方のお話を聞く中で、以下のような事情が明らかになりました。そのうちの幾つかを抜粋します。

 

【経営者の認識(狙い)と新人事制度導入後の結果】

①目標管理制度の導入

<当初の狙い>

テレワークが増える中、目標達成度中心の評価に変えることで、日々の仕事のプロセス

自体を細かく評価しなくても納得度の高い評価ができるようになるであろうと認識

<結果>

設定された目標、達成度の判断基準がともに曖昧であり、結局はそこに至るプロセスの

判断(評価)を求める声が増える要因になった

 
②職種ごとの仕事内容(ジョブ内容)に沿った評価基準の導入

<当初の狙い>

より評価基準が細かくなることで、具体的な評価がしやすくなるであろうと認識

<結果>

実際の現場の仕事内容(ジョブ内容:職務自体の求める成果や役割・責任の範囲)が

明確に定義されておらず、新しい評価基準とも整合していないこと、また上司による評

価方法が確立していないことから、適切な評価に繋がらなかった

 

③最新ITシステムの導入(HRテック活用)

<当初の狙い>

最新ITシステムの導入により人事実務が効率化できるであろうと認識

<結果>

人事評価の実務を無理にシステム化しようとして却って非効率になり(使いにくくな

り)、新たな不満に繋がる箇所も出てきた

 

 

このような例は決して珍しいものではなく、むしろ最近は同様の問い合わせを受けることが多くなりました。そのたびに、企業サイドが抱える課題感と課題解決の手段がマッチしていないと強く感じます。

 

当該企業の失敗要因は明白であり、狙い自体は悪いものではありませんでしたが、自社の実態にマッチした(組織全体の制度運用キャパまで考えた上での)制度の導入・運用ができなかったということです。

  

もう少し上段に構えて言えば、企業の人事制度改革で最も重要な、経営者のビジョンが明確になっていなかったことが最大の失敗要因としてあると考えられます。別の言葉で言いかえると、「自社の人事制度改革に対して、どういう目的を掲げ、どういう仕組みとして運用するのかという企業としての方向性」が明確に描けておらず、悪く言えば見切り発車で、目の前の課題に対して、聞こえのいいシステムを導入して場当たり的に解決を図ろうとした、とも言えるでしょうか。

 

冒頭にも触れましたが、昨今の企業を取り巻く人事課題・テーマは非常に多く、かつ複雑に絡み合っており、また他社でも先行企業の成功事例が極めて少ないため、情報も少ない状況です。そのため、経営者としても、人事制度改革の必要性を感じながらも中々手が出せず、目新しい商品・サービスに手を出してしまいがちということも分からなくはありません。

 

しかし、であるからこそ、本格的な人事制度改革に着手する前の段階で、冷静に自社の現状を見つめ直した上で、経営者としてのビジョン、人事制度改革の目的、方向性、そういったことをまずはじめに明確にすることを人事制度改革の「1丁目1番地」に掲げていただき、将来のために腰を据えてじっくりと取り組んでいただく、そんな1年にしていただければと思います。

執筆者

森中 謙介 | 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。初めて人事制度に取り組む中小企業がつまづきやすいポイントを踏まえ、無理なく、確実に運用できるよう、経営者に寄り添ったコンサルティングを旨としている。