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【本阪】ベンチャー/スタートアップ企業がはじめての評価・賃金制度を作る際の諸注意事項③

前回は、「ベンチャー/スタートアップ企業がはじめての評価・賃金制度を作る際の諸注意事項②」を解説しました。そちらをお読みでない方は、まずはそちらをご確認ください。

今回は、はじめて賃金制度を構築する際の諸注意事項の最後として、賞与と総額人件費管理についてまとめます。

 

賞与(原資)の捉え方

一般的に賞与とは、月給とは異なり臨時的な賃金として、年に数回の一定時期に一時金として支給するもので、日本では夏と冬の年2回に分けて支給している会社が多いでしょう。

賞与には「賃金後払い的」性質のほか、「功労報償」、「生活補填的」、「会社の利益分配的」性質等、多様な性質あります。「会社の利益分配的」な考えに則れば、業績と連動して減額もしくは無支給とすることが可能で、柔軟な人件費コントロールを行うための手段としては有効です。そのため、月給(固定費)と賞与(変動費)に人件費を分けて考えておくことは、経営管理上で必要施策とも言えます。

 

一方世間データを見ると、毎年慣例的に原資を業績連動とせず賞与支給を行っている会社も依然として約40%と一定数存在しています*1。また、業績連動賞与としていても、固定的な原資分と業績連動する原資分を分割して設計している会社もあります。そうした日本企業の慣習もあり、賞与も生活費の一部としてライフプランを考える社員もいることは確かです。従って、乱暴に賞与原資全体を極端な業績連動とさせると、社員心理面からは不安が多い要素にもなり得えます。

 

上記観点も踏まえると、 “最終的に”賞与を業績の調整手段とする考えを持って、賃金制度の設計を行う際には、一定の賞与支給も前提に想定年収を検討しておく。ただし、賞与の複数ある性質のうち「生活補填的」な性質にも気を配り、賞与の一部も月給同様に固定的に支給すべき人件費と捉えておく。相反している考え方かもしれませんが、安定した業績・規模になるまで、この二つの視点をもって毎年アナログに賞与原資を判断していく方が、人材の定着面には有効ではないでしょうか。

※個々人への配分額をどうするかは賞与支給ルール設計(個別算定方式)次第となりますが、その内容はセミナーや書籍等でも紹介していますので、今回は割愛します。

 

継続的に施策を考えるために、指標管理を

賃金制度は、社員への報酬を決定するルールです。仮に、「」で述べたように制度上で昇給額を抑える仕組みとしても、無計画に必要以上の人数を採用している、非効率に仕事をすることを許容し残業時間が多い部署を放置している、安易に昇格させてパフォーマンスに見合わない給与水準の社員が増えていく等の事態が起これば、自ずと総額人件費(とりわけ固定費)は増加傾向になってしまいます。

 

上記事態に比例して、売上や業績が大きく伸長していれば問題がないかもしれませんが、そうでないと、いずれ賞与を減額せざる得なくなり、一人当たりの賃金を下げる等、社員にとっては不安定で好ましくない施策になってしまいます。多少の業績連動性は必要ですが、極端な先行き不安定さは、転職市場でも優位な若手層や優秀な社員が他社に転職していく等、組織としては好ましくない事態になりかねません。

そうした事態にならないよう、適正な採用数管理もしっかり行い、社員一人当たりの売上・利益を伸長できるよう生産性を上げる施策を講じる、仕事レベルに応じた配分になるよう安易な昇格を制御する、賞与での調整はなるべく最小限にする等、安定した組織運営のための人事運用施策も重要です。

 

そうした施策を考えるためにも、賃金制度を作って終わりにすることなく、絶えず総額人件費、生産性指標等、人員構成…etc、「組織・社員」に関わる指標を経年でチェックし、なるべく後手の対処とならないよう心がけることが重要です。

 

*1:(一社)日本経済団体連合会、(一社)東京経営者協会,2019 年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要』https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/030.pdf

 

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。