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ベンチャー/スタートアップ企業がはじめての評価・賃金制度を作る際の諸注意事項②

前回は、「ベンチャー/スタートアップ企業がはじめての評価・賃金制度を作る際の諸注意事項」を解説しました。そちらをお読みでない方は、まずはそちらをご確認ください。

今回は、はじめて賃金制度を構築する際、注意すべき点(特に月給)を二つ取り上げて解説します。

 

注意点①:給与体系は頻繁に変えない/ポリシーがないうちはシンプルに

賃金制度(特に月給)の変更は、社員の生活にダイレクトに影響が及ぶため、一度定めた条件を頻繁に変えることは不利益変更の問題はもちろんですが、社員の心理面への影響からも避けた方が良いでしょう。

 

例えば、家族・住宅手当は「社員の生活に配慮していて、社員思い」といった印象付けることができ、人材確保のためのPRになると期待して、支給を決定したとしましょう。

しかし、導入後に支給対象外の社員から「仕事の貢献に応じた配分にしてほしい。個人の事情で不公平ではないか」と不満の声が上がり、考えを改め廃止することにしました。そうすると、支給対象社員や近く支給対象になる予定だった社員から、廃止に関しての不満が出る…といった事態になりかねません。

 

このようにポリシーが曖昧かつ頻繁な給与体系の変更は、変動への不安を煽るばかりで望ましくありません。上記のような事態を避けるためにも、給与は最初から支給ポリシーを明確に定めておき、それを説明して納得してもらうことが重要です。

そのポリシーが明確でないうちは、最初から安易に諸手当類を支給することなく、仕事のレベルに応じたシンプルな給与項目に絞っておくことが望ましいでしょう。

 

注意点②:改定の可能性も考慮し、拡張性ある選択を

多くの会社では、毎年昇給を行うことが一般的でしょう。年齢・勤続年数に応じて自動で昇給する方法や、評価による昇給、昇格による昇給が一般的分類ですが、評価昇給と昇格昇給の組み合わせとしている企業が多いでしょう。

 

昇格昇給は、社員の等級が上がることによる昇給ですので、一般的には数年に1回と頻繁に行われるものではない一方、評価昇給の場合は、一般的には昇格をさせなくても毎年評価によって給与を上げることが可能です。こうして毎年の社員の頑張りに応じて昇給させることは、定着には効果的施策です。ただし、昇給は人件費の固定部分を増加させる要因でもありますので、人材の代謝が起こらないうちは経営的観点からみて慎重な検討が必要です。

 

例えば、以下2つの場合を比較して具体的検討論点を説明します。

 A)標準評価:10,000円昇給(年1回)、昇格の際は10,000円昇給

 B)標準評価:5,000円昇給(年1回)、昇格の際は20,000円昇給

 

両方とも300,000円からスタートしている場合、3年後に昇格した場合は330,000円となり同じ水準になるとします。異なる点は、昇格する前の数年間、評価昇給はAの方が大きく発生している点と、昇格昇給額はBの方が大きい点です。

 

この場合、はじめて賃金制度を導入する際に取るべき選択肢はどちらでしょうか。

推奨は、後者の方です。理由としては、主に以下の通りです。

 

1.Aは、昇格していない(=前年と、ほぼ同じ仕事レベルである)にもかかわらず高額な昇給で、社員の成長に反しやや割高な給与になりやすい(上限を定めたとしても、早くその上限に到達する)ため固定費が増額しやすい。また、Aの場合の昇格インセンティブは、Bより劣る。

 

2.今後制度を改定する際「低い昇給額」⇒「高い昇給額」とする方が行いやすいため、Bの方が拡張性はある。逆の場合は、今までよりも昇給額が下がるため受けいれにくい。

 

人件費の過度な上昇を適正に抑える、昇格した社員にフォーカスして厚遇するという考え方も重要ですが、2のように、今後も人事制度を改定する可能性がある場合は、改定のしやすさにも配慮して設計する方が望ましいでしょう。

 

 

賃金制度における月給は、特に社員の方の生活のベースになるものですので、考え方の軸と納得感が求められます。

また、今後制度改定の必要性が出てくるとき、特に「廃止する」「金額を下げる」といった改定は、不利益変更禁止の原則の考え及び社員の心情面からもハードルが高くなります。

こういった観点も踏まえて、最初の賃金制度設計はシンプルにかつ、拡張性に考慮することが重要です。

 

今回は、特に月給にポイントを絞って説明しました。次回は、賞与及び総額人件費管理について解説してまいります。

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。