【森谷】中小企業における「ジョブ型人事制度」①
「ジョブ型」という言葉がにわかに流行しています。
新型コロナウイルス感染症の流行によりニューノーマルな働き方が求められる中、かねてからあった働き方改革の流れも相まって、テレワーク(在宅勤務 等)の必要性が高まっています。
テレワークで最も問題となりやすいのは情報セキュリティですが、その次に問題となるのは社員間コミュニケーションや人事評価です(実は、中長期的にはこちらの問題の方が大きいと言えます)。
テレワークの推進により、社員の仕事ぶりを見られる機会が減っている中、いかに人事評価(人事考課)を行うかという問題に直面し、やや短絡的に「ジョブ型人事制度を入れよう」という流れが出ているような気がしますが、企業人事や人事コンサルタントの間では賛否の声があります。
数回にわたり、改めて「ジョブ型人事制度」や「ジョブ型雇用」について考えてみる中で、タイトルにもあるように「中小企業におけるジョブ型」をテーマにお話ししてきます。
尚、当コラムでは、筆者の解釈をもって「ジョブ型」は解説しますが、アカデミックな「ジョブ型」は述べない予定ですので、あしからずご了承ください。
なぜジョブ型が注目されているかは、まずは時代背景をつかんでおくとよいと思います。
①年功主義
戦後は、「年功序列」「終身雇用」を軸とした日本型経営でした。日本全体が右肩上がりの経済状況でしたので、ある意味で最適な経営手法だと言えます。社員は生活不安なく安心して働けますし、会社は中長期的に労働力を確保できます。賃金は年功型賃金制度でしたので、極論を言えば人事評価は不要でした。
②能力主義
経済成長率の鈍化にともない、賃金コスト高や若者の意欲減退など、日本型経営の負の側面も目立ち始める中、社員の能力に焦点を当てた賃金・評価システムが流行します。ただし実態は、能力の著しく高い、あるいは低い社員を除き、大部分で年功主義を引きずっていました。人の能力を正しく評価するのは難しいことを考えると、運用の難しさは容易に想像できます。
③成果主義と「脱」成果主義
経済の停滞にともない、賃金コスト高が企業に重くのしかかり、年功的な人事制度はいよいよ限界を迎えます。そこで、創出した成果を評価し、その成果に応じて賃金を支払う仕組みに変更する企業が増えました。
ただ、短期的な成果に着目し過ぎた結果、中長期的な企業競争力の低下を招くという懸念から、結果だけでなくその過程も評価する必要性が叫ばれていました。
④職務主義(≒ジョブ型)
近年、人(年功や能力)に焦点を当てるのではなく、結果だけでもなく、仕事そのものに焦点を当てて評価し報酬を決定しようと注目されているのが職務主義(≒ジョブ型)です。欧米諸国の多くは、この職務主義が採用されていると言われています。
ここまでの流れを見ていただくと、ジョブ型は理想的な仕組みと言えそうです。では、なぜジョブ型に賛否の声があがっているのでしょうか。次回以降で述べたいと思います。