【森中】評価制度と多様性①
今回から数回に分けて、表題のタイトルについて扱っていきます。
先日、とある企業を訪問した際、次のような質問を投げかけられることがありました。
「企業内で評価制度を取り入れていくということは、評価基準というものさしでもって、社員に画一的な行動を求めていくという側面があるように思う。このことは、個々人の役割認識を明確にし、期待行動を促進できるというメリットがある反面、多様性(※筆者注:ここでは個人ごとの多様な働き方とかキャリアの多様性、あるいは物事に対する多様な捉え方など、幅広い意味合いを含む)を疎外することにならないだろうか」。
普段受けることの無い質問であったために十分な回答ができなかったのですが、非常に示唆に富んだ問いであると、後々になって感じた次第です。結論から言うと、評価制度の導入によって「多様性」を阻害する可能性はありうるものの、運用に十分な注意を払えば、大きな問題が発生する事態はクリアできると考えています。
まず、一般論としてですが、評価制度は良くも悪くも企業の風土を体現するものである、ということは言えるかと思います。少々乱暴な議論をしますが、例えば営業職中心のスタートアップ企業で、個人の営業成績に基づく成果主義型の評価・賃金制度を採用していれば、いくら立派なビジョン・理念を掲げていたとしても、現場の感覚としては営業成績の良い人が優先して評価される雰囲気になると考えられますし、その方が経営全体としては推進力が出るケースが多いでしょう。職種にもよりますが、成績を上げる人もいれば上げない人もいていい、キャリア志向の人もいればそうでない人もいていい、評価は等しく同じように扱う、という仕組みは中々成り立ちにくく、逆にそうすると、営業成績の良い人から不満が出てしまうことと思われます。
では、企業の中で多様性をより広く受け入れていくことは、評価制度の画一的な運用と相いれないのかと言えば、必ずしもそうではなく、一定の工夫は必要ですが、運用方法次第でバランスよく成り立ちうると考えます。ただその場合、評価制度だけで解決できるものではなく、働き方自体の見直しを含めた人事制度全体の改定と、トップダウンによる経営方針の社員への浸透がより重要な要素になってくると考えます。このことについて、次回、筆者が直接支援したクライアント先の事例を基に解説していきたいと思います。