【森中】リモートワークを活用して人事評価制度の運用レベルを上げる
人事評価制度の運用でしばしば課題として挙げられる事象の一つに、組織上の都合で評価者が被評価者(評価対象者)の仕事ぶりを見る機会が少なく、十分な評価をすることが難しいということがある。
例えば日本全国に営業拠点がある営業系の会社で、組織体制の関係から、評価者である上司と被評価者である部下の勤務場所が異なり(かつ距離的にも相当に離れており)、気軽に会えないようなケースがある。他にも、システム開発の会社で、被評価者が所属しているチームが、直属の評価者とは別であるようなケースも比較的よく耳にするタイプである。もちろんこれらの例に限ったことではないが、普段から仕事ぶりを十分に見れる状況であるのと見れない状況であるのとでは、評価者として人事評価を行うにあたり、特に日々の仕事ぶりに関する評価では、後者は前者と比べてどうしても評価しにくい面が否めない。
こうした課題を抱える企業に対して、筆者としては、普段見る機会が少ないからこそ、評価の仕方に不公平が生じないよう、普段会えない方の部下とのコミュニケーションの機会を増やしたり、当該部下の周囲にいる人たちから評価に関連する仕事ぶりの情報を共有してもらうなど、とにかく情報収集の機会を充実させることをアドバイスさせていただいているが、そこまで時間はかけられないといった理由から、抜本的な課題解決に向かわないことが多いのもまた事実である。
話は変わって、コロナウィルスの感染拡大移行、日本全体でリモートワークが急激に浸透し、大企業だけではなく中小企業でも、在宅勤務、リモートワークが当たり前に行われるようになっている。代表的なツールとしては「zoom」が爆発的に普及し、リモート面談、リモート飲み会、といった言葉も、日々の会話の中で普通に出てくるようになった。このような状況は、先ほど挙げた、勤務場所・距離が離れていることによる人事評価制度の課題に関して言えば、むしろチャンスではないかと、筆者としては考えている。筆者としても、日々リモート会議・面談を社内外で日常的に行うようになってきているため、こうした機会を有効に活用すれば、完璧ではないにしても、距離が離れていることによる人事評価関連の情報収集不足はかなり解消するのではないかと感じているところである。リモートとは言え対面であり、資料の共有なども含めて密に打ち合わせをすることが十分に可能なため、従来の電話だけのやり取りと比べれば、仕事上のコミュニケーションの質は保ちやすいし、もちろんリモートで相手の状況が全て把握できるわけではないが、気軽に面談の機会をつくりやすくなった、という点は間違いなく言えることだろう。
被評価者とのコミュニケーションの機会をリモートで増やすことは当然のこと、本人が所属する拠点のマネージャーなど、仕事の関係者からの聞き取りなども断然やりやすくなっている。
ただ、こうした状況をチャンスととらえて人事評価制度の運用改善に活かそうと考える企業はまだまだ少数派のようであり、リモート環境が整ったからといって部下との面談の機会を増やした、というような話はあまり聞かないのが現状である。これはとてももったいないことであると考える。
今後コロナが収束に向かうとしても、リモートによる仕事環境が無くなることはなく、むしろ促進されていくであろうと考えられる。そうした中で、勤務拠点が離れている部下の人事評価(もちろん評価に限ったことだけではないが)を適切に実施するために、会社・経営陣は、評価者が本人とのリモート面談や関係者へのヒアリングを行うことを義務付けるぐらいのことをすべきではないだろうか。週に1回は難しいまでも、少なくとも2週に1回程度は必須として、そのような取り組みを定着させていくことが肝要であろう。
もちろん、リモートだけに頼るのではなく、あくまでそれは効率的な情報収集のツールとして活用は促進していくものの、距離が離れているから会えない、仕事ぶりが分からない、ということを都合の良い言い訳にすることがないよう、実際に仕事ぶりを見る機会を意図的につくらせるなど、会社全体としては、評価者の意識を高めていく取組みもこれまで以上に重要になってくるものと考えられる。