【森中】70歳雇用時代は目前
去る2月4日、「70歳までの就業機会の確保を確保する制度」の構築を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法などの改正案が閣議決定された。今国会に提出されれば、早くて2021年4月から新法が適用される見通しもある。70歳までの雇用を「努力義務」とする内容であるが、政府方針としては、既に次のプランとして「義務化」する方向であることも表明されている。
新法が成立すれば、大手企業を中心に70歳雇用を打ち出す企業も出てくるであろうし、そこまでいかずとも、65歳への定年延長を実施する企業は顕著に増えてくることが予想される。
また、2025年には特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢引き上げ(女性は2030年)、高年齢者雇用継続給付の段階的減額-廃止が予定されており、その穴埋めが企業サイドに求められることになるなど、高年齢者雇用の推進が企業全体の人件費上昇圧力としてのしかかってくる。
このような状況の中、多くの企業(大手企業に限らず)では定年後の賃金制度を含む人事制度全体の見直しが求められてくることになるが、現実にはここまでの状況になってきていても、まだ手付かずである企業が少なくない。
2013年の高年齢者雇用安定法改正時には何もしなくて大丈夫だった企業も、その後確実に組織の高年齢化が進んでおり、かつ度重なる法改正への対応が求められるようになってきているため、今回の波は「無視できない」と、危機感を覚えている企業も多い。
危機感のある企業はまだよいが、自社の現状と将来の組織の方向性を正しく見極められない企業は、近い将来に、「取り返しがつかなくなる」可能性もないではない。
新法の特徴としては、従来認められていた、
① 定年廃止
② 定年延長
③ 継続雇用制度導入(②③は70歳までに引き上げることが努力義務化)」
に加えて、
④ 他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
⑤ 個人とのフリーランス契約への資金提供
⑥ 個人の起業支援
⑦ 個人の社会貢献活動参加への資金提供
といった、「社外」での雇用を促進する内容が盛り込まれたことである。
自社での雇用継続、それも70歳どころの話ではなく、65歳までの雇用もままならない状況の中、社外への流動化促進を考える余裕のある会社は限られているだろう。
ただ、大手企業を中心に、中小企業でも高年齢者雇用の先進企業は存在する。こうした企業では、④~⑦の取組みへの試行・チャレンジも確実に進んでいくだろうし、将来的には高年齢者雇用の戦略的な選択肢として④~⑦を機能させることができるようになっていくものと思われる。
先進企業は長い歴史(10年単位)の中で高年齢者活用を進めてきており、ノウハウの蓄積がある。他社がすぐに追いつけるような代物ではない。今から高年齢者活用をはじめていく企業は相当な覚悟をもち、スピード感をもって取り組んでいかなければならない。70歳雇用時代は目前である。