【森中】給与制度は「実在者ベース」で検討するのが近道
給与制度のつくり方は各社各様だが、抜本的に給与体系を見直す場合には、「あるべき像」から給与体系を組み直すケースが多いだろう。
例えば、「年功型から実力主義へ」「能力型から役割主義へ」といった評価・等級の枠組みを抜本的に見直す場合には、それぞれの考え方に合った新しい給与体系を前提にする。給与水準も現状を是とするのではなく、世間水準やライバル企業の水準を参考に、とにかく「あるべき像」をベースに組み立てを行う。そして、ほぼ新しい給与体系が組みあがった段階で既存社員への格付けを行い、新旧給与のシミュレーションを行うのだが、ここでつまづいてしまうケースをよく耳にする。いざ当てはめを行ってみると、経営陣や各部門責任者から「こんなに差をつけられない」とか「何でこの人とこの人が逆転するのか」といった違和感が噴出するのである。
このような失敗が起こる原因としては、給与制度を組む早い段階から「実在者ベース」での検討を十分に行っていなかったことが挙げられる。例えば「あるべき像」を前提に新しい給与体系を組んでいったところ、「営業部門のAさんとBさんで2万円の差」が付いたとする。これは「あるべき像」「他社水準」といった要素からは合理的な理屈が立つ数値ではあるが、経営者や部門責任者の共通した意向としては「そこまでの差は無い」というもので、こうした感覚値の方が存外正しいケースが多いのである。
要はバランスが大切で、「あるべき像」の議論は当然必要なのだが、並行して「実在者ベース」での議論も走らせることによって、バランスを図ることができる。「AさんとBさんの給与が逆転してしまっていることは現状の貢献度からすると確かにおかしくて、ではどの程度が妥当かというと・・・」といった実在者ベースでの具体的な金額の話ができていれば、あるべき像の議論と併せて妥当なラインが探りやすいのである。案外こうした議論が平行して行えている企業は少ない印象である。
例えばコンサルタントが制度改定を仕切っている場合や、中途採用で入った人事責任者が強引に「あるべき像」の議論ありきで、内部の事情に配慮せずに制度改定を進めているようなケースは典型的であり、特に注意が必要である。
最終的に意思決定を行う経営者にしても、タイプによっても異なるが、多くは合理性だけで賃金を決める経営者はおらず、社員ごとの「バランス」を気にかけるものであるから、人事担当者としても、「あるべき像」を前提としつつも、最終的な給与制度の着地を「実在者ベース」で見た場合で妥当なラインにもっていけるかどうかは経営者にゴーサインをもらえるかどうかという点で重要になるため、特に中小企業においては、給与制度構築における一つの作法として留意されたい。