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二つの観点で読み解く賃金設計 ― 給与項目の選定を事例で比較する ―

賃金制度の改定にあたり、年功的な給与体系からの転換など、時代に適した処遇への見直しを進めている企業は少なくありません。

一方で、年功序列と実力主義の違いは理解していても、実際にどのように給与項目を選び、どのように設計すべきかという点で判断に迷うケースは少なくありません。

 

本稿では、実際の事例をもとに、給与項目の選び方に注目して、賃金設計の考え方を整理します。

 

【本稿で扱う内容】

✓ 給与項目選定の考え方

✓ 給与の性質を分類する二つの観点

✓ (実例)A社・B社の賃金設計の比較

 

■賃金制度における「給与項目」の意味

賃金制度では、給与を年齢給、能力給、役割給など、複数の項目(ラベル)に分けて管理します。

例えば、同じ30万円であっても

・総額のみが示されている場合

・能力給20万円、年齢給10万円…といった内訳が示されている場合

では、社員の受け取り方や納得感は大きく異なります。

 

通常、賃金制度の設計にあたっては、「自社はどのような基準で、誰に重点的に報いたいのか」という賃金ポリシーに沿って項目を選定します。

一方で、実際の賃金ポリシーでは

・成果やパフォーマンスへの報酬

・能力開発の促進

・社員間の納得感や公平性の確保

など、複数のニーズが同時に求められることが一般的です。そのため、基本給や各種手当を組み合わせることで、賃金ポリシーを反映した給与体系を設計する必要があります。

 

本稿では、賃金制度の中でも設計上の中核となる「基本給」に焦点を当てます。

 

■給与の性質を分ける二つの観点

以下の図は、基本給に用いられる給与の性質を二分して整理したものです。

 

給与項目

定義

性質

年齢給

年齢に応じた給与

A)年功・安定性重視

勤続給

勤続年数に応じた給与

職能給 

職務能力に応じた給与

職務給

担当する職務に応じた給与

B)貢献度・実力重視

役割給

担当する役割に応じた給与

成果給

対象期間の成果に応じた給与

 

 

・(A)年功・安定性重視:年齢給、勤続給、職能給

人の属性や能力を基準にする給与です。いずれも基本的に年数とともに積み上がる性質があり、下がる場面も限定的であるため、安定性が高いといえます。金額が安定し、かつ今後も上がる見通しが立てやすいため、社員が安心感を得やすい給与です。

一方で、仕事のパフォーマンスとの連動性が比較的薄く、責任ある職務を担う社員や、成果を上げている社員には報われる実感が得にくい、貢献や行動の動機付けへの効果性が低いと言えます。

 

・(B)貢献度・実力重視:職務給、役割給、成果給

仕事やパフォーマンスを基準とする給与です。職務や役割の変更、その時の成果に即時かつ直接影響を受けるため、前述の(A)に比べると変動しやすく蓄積性が薄いことから、安定性に欠けると言えます。

他方で、成果や役割貢献を反映するという性質から、成果や貢献のための行動を促進する効果が期待されます。

 

■(実例)A社・B社の賃金設計を読み解く

ここまで給与項目を二つの観点で整理しました。

以下では、実際の賃金設計において、それぞれの給与項目の使い分け方を、事例をもとに確認します。

具体的には、「(A)年功・安定性重視」を取り入れたA社と、「(B)貢献度・実力重視」を採用したB社の制度改定事例を取り上げます。

 

✓ 製造業A社:年功を重視しつつ社員の動機づけを強化した事例

【基本給の構成】

・改定前:基本給

・改定後:勤続給+職能給

 

【設計の考え方】

1.改定前の問題点

A社では職務・技能・経験年数を総合的に勘案して決める「基本給」を採用していましたが、実際の運用では昇給が実質的に年功基準で決まっており、その結果、社員の多くが「給与は努力によらず自動的に上がるもの」と受け止めている点が課題として認識されていました。

 

2.改定にあたっての賃金ポリシー

A社の製造業という業態特性を踏まえ、とりわけ技術職や生産職において熟練の技能や自社の勤務経験の蓄積が重要であるという考え方を維持し、年功に報いるという従来の方針は継続することにしました。

 

制度改定では、社員の「頑張らなくても自動的に上がる」認識を是正するため、基本給の構成を見直し、新たに勤続給と職能給に分けることを行いました。

勤続給は年功重視を反映する給与として位置付け、職能給は個人ごとの能力評価を昇給に反映する給与として導入しています。これにより、年功を重視しつつ個人の能力も処遇に反映される仕組みとしました。

 

勤続給・職能給はいずれもA)年功・安定性重視に分類される給与項目です。A社の事例は、給与体系としての安定性を維持することで、社員への動機づけを緩やかに高めることを意図した設計といえます。

 

ITB社:対象社員を絞って実力主義を推進した事例

【基本給の構成】

・改定前:全等級で職能給

・改定後

– 役割給(管理職)

– 職能給(一般社員)

 

【設計の考え方】

1.改定前の問題点:

B社は近年、市場変化を受けて業績向上を重要課題としていました。とりわけ部署やプロジェクトを率いる管理職には、プロジェクトの採算性向上など、役割に沿った成果が求められていました。

もっとも、B社は職能給を採用しており、実際の処遇は年功的に決まる制度でした。このため、管理職に対する役割の拡大に対して給与の性質が十分に適合せず、意図した処遇を行いにくい点が、賃金制度上の課題として挙げられました。

 

2.改定にあたっての賃金ポリシー:

B社は新卒採用が中心で人材育成を重視する風土であるため、社員は中長期的な職務能力の向上に応じて処遇するという方針がありました。

 

検討の結果、管理職は期待役割に処遇を連動させる「役割主義」、一般社員には成長のプロセスと能力を重視する「職能主義」と、対象社員ごとに等級の考え方を分けることにしました。これに沿って給与も、管理職を役割給、一般職を職能給としています。

管理職は、ポストにつけば等級が上がり給与が上がるが、成果やパフォーマンスが役割基準に満たない場合はポストオフして等級・給与を下げるという運用です。

一方、一般社員については、育成による能力開発を重視するため、職務能力に応じた処遇としています。職務能力は経験とともに獲得され、一般に低下することがないと考えられるため、処遇の安定性が確保されます。これにより安心してスキルアップできる体系としました。

 

このようにB社の事例は、対象社員を分けることで、期待役割に処遇を連動させる方策と、能力開発を重視する方策を両立する設計です。

 

■まとめ

本稿では、給与項目を二つの軸で整理し、A社・B社の賃金設計の事例を読み解きました。特に制度改定における問題意識や賃金ポリシーに注目し、各社がどのような検討を行い、なぜその給与項目を選択したのかを整理しました。

 

近年はジョブ型や成果主義など、人ではなく仕事に準拠した処遇が注目されています。しかし、既存制度とのギャップや組織風土との適合、社員の受け止め方を踏まえると、B社のように適用対象を分けて導入する、あるいは安定性のある給与を組み合わせながら部分的に採用することが現実的なアプローチといえるでしょう。

 

こうした考え方を実際の制度改定に落とし込む際には、総額人件費や昇給管理への影響を踏まえ、賃金シミュレーションを通じて確認を行いながら検討を進めることが重要となります。

 

本稿が、「自社はどのような基準で、誰に重点的に報いたいのか」という賃金ポリシーを踏まえた制度改定のヒントとなれば幸いです。

執筆者

増田 あかり | 人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、一社目は製造業で生産管理を経験。
前職では大学生の就職支援に従事する中、人と仕事、人と組織の課題に向き合うことの難しさとやりがいを実感。
より中長期的な視点で組織と人の成長を支援したいという想いから新経営サービスに入社、顧客の想いに寄り添うコンサルタントを目指し日々活動している。