【森中】学校教員の残業は減るのか?
様々な業界で働き方改革が進んでいる。中心的なテーマの一つとして「長時間労働の削減」があり、特に残業代に関しては人事制度を作る際も避けて通れない難しい課題である。
あまり知られていないが、学校業界は本格的に働き方改革に取り組もうとしている業界の一つである。筆者は縁あって、昨年度から学校法人の人事制度改革支援に取り組ませていただいている。民間企業とは性質が異なるため全く同じように比較することはできないが、参考になる点が含まれため、今回はそこで見聞きした内容について簡単に紹介してみたい。
文部科学省では平成31年1月25日、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を制定、そこでは、時間外労働に関して、「①1ヵ月45時間、年間360時間、②特別な場合でも1ヵ月100時間未満、年間720時間」とする具体的な数値が示された。これはこのほど成立した働き方改革法案の目玉である「残業上限規制」に沿った内容である。
学校現場、特に教員の労働実態は一般的にイメージする以上に過酷である。慢性的な人手不足であることは前提として、教員の仕事内容がとにかく多い。部活動はじめ、授業以外の学校業務(校務)が多岐にわたるため、時間外労働が1ヵ月100時間程度に達することもざらにある。関係者に直接聞いてみると、想像以上であった。とても上記のガイドラインが守れるような現状では無いと思われたが、経営サイドも、たた単に教員に対して労働時間を減らせと言っているわけではない。
中央教育審議会が上記ガイドラインを受けて文部科学省に提言した答申によれば、例として、①生徒の早朝登校を禁止し教員の出勤時間を遅らせる、②休み時間の対応や校内清掃に地域人材を活用する、③部活動に外部人材を活用する、といった具体策が提示されている。また、④民間企業で活用されている「変形労働時間制」の適用についても触れられており、筆者の支援先でも同様の観点から具体策を展開していくことが決まっている(尚、地方公務員には現状では変形労働時間制が認められていない。私立学校は除かれており、筆者の支援先でも変形労働時間制の導入が次年度からスタートする予定である)。
もちろん、各学校とも取組みはこれから本格化するということであり、計画通り上手くいくかどうかは未知数である。ただ、支援先の経営幹部曰く、今回のガイドラインは学校法人関係者にとっては非常に画期的かつ重大なものであるという。幾つか声を拾ってみたい。
「経営側も教員も、意識を根本から変えていかなければいけない。これまでは残業代が支払われていないということもあったが、労働時間の上限という概念自体がそもそも希薄だったと言える。」
「教員にも保護者にも、“教育の現場とはこういうものだ、教員が何でもするのが当たり前だ、子供たちのためだから”という無意識の前提が現在まで残っている。しかし、若手の教員などは却って現在の学校現場に違和感を覚えており、時代が変わってきていることも認識しなければならない。保護者への対応は難しい面もあるが、継続的な説明が必要だ。」
「これからは包括的に教員の仕事を捉えるのではなく、授業を始めとして本来担うべき仕事を明確にすることで働き方を変えていく必要がある、その意味で今回のガイドラインを改革の契機にしなければならない。学校法人として生き残っていくためにも今一番解決しなければならない課題である」。
学校と企業では性質が違うから同じ議論はできないと考えられがちだが、これらの言葉には企業における働き方改革の推進にも多くの示唆を含むものであると考える。
「効率」という言葉は誤解を生むので敢えて避けるが、働く時間について上限を定めてしまい、その範囲でパフォーマンスを最大化させるためにはどうすればいいか、ということを考えるように“意識”を変えていく。その際、今までの常識が邪魔をして「意識改革」の妨げになる、現場が抵抗勢力になることも予想されるが、いかに粘り強く取り組めるか。
意識改革が進めば、自然と不要な仕事を減らしたり、仕事の偏りを無くしていく、といった思考に向かっていくはずである。こうしたやり方がやはり、シンプルながら、学校にしても企業にしても働き方改革のスタートラインになっていくだろう。