年末の「10大ニュース」ならぬ「3大トピック」
今年も最終盤を迎えていますが、貴社の組織・人事課題は解決に向かっていますでしょうか。
年末に差し掛かるとよく目にする「今年の10大ニュース」。今回は、HR分野でのトピックに限り、筆者の独断と偏見でHR分野の「今年の3大トピック」を見繕ってみました。
Ⅰ.賃上げ圧力と、賃金制度の見直し
連合が発表した2025年春闘の最終結果によると、ベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率の加重平均は5.25%となり、バブル期以来の高水準となりました。これで、2年連続で5%を超えたことになります。
また、10月には最低賃金が改定され、全国平均66円増により、全国の加重平均は1,121円、全ての都道府県で1,000円を超えるという結果となりました。
一方、実質賃金は下がり続けており、2025年に入り10か月連続でマイナスを記録しています。物価の上昇に対して賃上げが追い付いておらず、折角の賃上げブームも好印象と言えない状況です。中小企業が営業利益率を下げてでも行っている賃上げも、社員の豊かな生活につながっていないのは辛いところです。
本来は20~25年をかけて行うべきだった賃上げを、わずか数年で進めようとしています。ストレスがかかるのは必然ですが、この外部環境を受入れない訳にもいかず、向こう数年は同様の傾向が続きそうです。
今後は、拠出可能な人件費を設定した上で、メリハリをつけてそれを配分する「人件費ミックス」が必要となります。もしよろしければ下記のリンクもご覧ください。
https://jinji-seido.jp/column/3072/
Ⅱ.「スキル」への注目
「タイピスト」「ミシン販売員」「預貯金集金人」「声色師」。
これらは、国勢調査で選択する職業例において、平成に存在していたものの現在は削除されている職業です。
数年前から流行し脚光を浴びた「ジョブ型」も既に過去の話になりつつあります。デジタル化、AIの進化などを背景に、将来的に消滅する職業といった話題は後を絶ちません。
リスキリングやアップスキリング、スキルベースといった言葉に注目が集まっています。
リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること(経済産業省の定義)」です。また、アップスキリングは一般的に、「既に保有している知識・技術を更新したり強化したりすること」を指します。
不確実性が高く、変化の大きな時代に突入する中、人事評価のために年度初めに立てた目標が期中に形骸化するといった課題を多く聞きます。同様に、ジョブディスクリプションでは、解釈の余地を残すために職務の規定を曖昧にせざるをえないといった課題もあります。MBOやジョブ型といった人事ツールが本来の機能を発揮できないシーンが増えていく中、大変な労力と費用をかけて導入したジョブ型人事制度も、向こう数年でスキルベースの評価・賃金制度に変更する必要があるかもしれません。
スキルの日本語訳は「技能」ですが、一昔前の職能資格制度(≒年功的評価・処遇制度)に戻る訳にはいきません。今後は、職務(ジョブ)、成果、行動、スキルを組み合わせて評価できる人事制度が求められそうです。
Ⅲ.人事部門のリロール(役割再定義)とプロ化
企業が保有する経営資源「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の中で、最も重要なものは「ヒト」であることに異論はないと思います。人的資本経営が注目されているのは、非常に良い流れだと考えています。
そして、この「ヒト」のデザインを所管するのは人事部です。
人事部の役割は、「人材マネジメント(採用、定着、育成、配置など)」「人事制度」「労務管理」「組織開発」といった定番テーマから、「心理的安全性」「エンゲージメント」「ダイバーシティ&インクルージョン」「ウェルビーイング」「OKR」「1on1」といった新しい概念・手法への対応まで、非常に多岐に渡っています。
これらに加え今後は、「経営戦略と人事戦略の統合」「人的資本の充実」「データやテクノロジーの活用による深化」など、更にハイレベルな役割が求められます。
企業経営において最も重要な部門は人事部です。人事部の役割を再定義し、人事のプロフェッショナルを育成していくことが求められそうです。
以上、今後の企業経営に大きな影響を及ぼしそうなトピックを3つご紹介しました。来年に向け、人事戦略検討の一助になれば幸いです。
