【岡本】中小企業の退職金制度について考える
退職金制度は多くの企業に導入されている制度の一つです。ただし、退職金制度を見直す機会はあまり多くないかもしれません。
そこで今回のコラムでは、中小企業の退職金制度の課題や改善点についてお話します。
自社の退職金制度と見比べて、必要があれば見直しの検討を行うきっかけにして頂ければと思います。
・中小企業における退職金制度の傾向
退職金の算出方法は様々です。
その中でも、中小企業においては、算定基礎額を設定して退職金を算出する企業が多いです。
東京産業労働局のデータ(※1)によれば、300名以下の企業において、退職一時金の算出方法は、退職金算定基礎額をもとに決定する方式が47.1%、勤続年数に基づいて決定する方式が22.6%となっています。
また、退職金の算定基礎額に何を設定しているかについては、7割以上の企業が退職時の基本給を絡めて算出する方式を取っています。
このような傾向にあるのは、年功序列や終身雇用の考え方によって構築されてきた賃金制度の傾向が退職金制度にもおよんでいることが要因のひとつとして考えられます。
・世の中の流れ
2019年総務省統計局が発表したデータ(※2)では、転職者数が351万人と過去最高となり、転職者比率は2010年のリーマンショック以降徐々に増加傾向にあります。
いわゆる「終身雇用の崩壊」が叫ばれる中で、大企業、中小企業問わず、人材の流動性が高まっています。
この状況下において、これからの人材確保を考えると、勤続年数などの年功的な要素ではなく、成果や能力に対して評価を行い、処遇に紐づけることが有用です。これは退職金制度においても同様です。
中小企業の多くが採用している退職時の基本給を絡めて算出する方式では、退職直近の基本給によって退職金が決定します。その際に、勤続年数などを絡めて算出する企業も多いでしょう。このような方式では退職金制度も年功的になり、在籍期間全体の成果や貢献を十分に退職金へ反映することは難しくなってしまいます。
では、成果や貢献を十分に退職金へ反映させる為にはどのような方式があるのでしょうか。そのヒントとなるのが大企業の退職金制度です。
・大企業における退職金制度
退職金制度において、中小企業と大企業では傾向が異なります。
先ほどのデータとは出所は異なりますが、日本経済団体連合会のデータ(従業員数が500名以上の企業が8割を占める)においては、基本給と退職金基礎額との関係について、大企業ほど、基本給とは切り離して決定す る方式を採用している企業の割合が多く、全体の84%を占めています。一方で、基本給を基礎額に繰り入れている企業は13%となっています。
また、その中でもポイント方式による退職金基礎額の算出を選択している企業は、8割を超えています。
このポイント方式とはそもそもどういったものなのか?また、どのようなメリットがあるのかについて、次回のコラムで紹介したいと思います。
〈参考資料〉
※1:中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版) 出典:東京都産業労働局
300名以下の企業の内訳は、10~49名_65.7% 50~99名_21.4%
100~299名_12.9%
※2:統計トピックスNo.123 出典:総務省統計局
※3:2018年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果 出典:日本経済団体連合会