【本阪】ベンチャー/スタートアップ企業がはじめての評価・賃金制度を作る際の諸注意事項①
前回は、「ベンチャー/スタートアップ企業はいつから評価・賃金制度が必要?」を解説しました。お読みでない方は、まずはそちらをご確認ください。
今回は、組織が拡大するなかで、等級・評価制度を構築する際に「制度をどこまで精緻につくるべきか?」について、注意すべき点を二つ例に取り上げて解説します。
注意点①:綿密な評価基準の是非
各職種の特性を考慮して、職種を分けて評価することは、具体性があって評価が行いやすく、納得感もあるという点ではメリットはあります。
ただし、兼務者がいる等で職種別評価基準がかえって使いにくい、ということも想定されます。事業が成熟していない時には、社員同士でタスクを分ける部分と、お互いに連携して補完しあうこともあるでしょう。そのような中、完全に分業出来ている前提として、職務に合致した職種別評価を行おうとすると、結果的に実態に合致せず使いにくい評価表になることもあります。
また、組織体制人数が変わり、数年しないうちに組織が大幅に変わる、業務・責任範囲が変わる、仕事の一部を外注に切り替える、という変化も起こり得るのです。そうした点から、現時点だけを切り取って緻密な評価表や評価基準を作らなくてもよいでしょう。
これらも踏まえると、組織が変化する時期の評価制度は、
1. 職種共通として、大まかに等級(・役職)に分けた評価基準を作っておく
2. 職種別であっても、不変的でメイン職種のものだけを絞り、その他は大括りで対応
(例:営業担当、システム開発担当、バックオフィス担当者用 の3種程度)
3. 評価項目は「現状」に合わせて、評価基準を事細かに多数作りこまない
といった方法が推奨できます。
注意点②:厳格すぎる昇格ルールの是非
等級(参考:等級制度)が給与水準に紐づく制度とすると、人件費バランスの観点からも、ある程度昇格(=社員の等級を上げること)は、厳格に行う必要はあります。
ただし、あまりに厳格に行おうとして昇格審査にかかる手順を多くすると(例:滞留年数+評価条件+論文+外部試験+面接…等)、運用面で回せない⇒ルールが形骸化する⇒制度やルールに信用がない状態、という事態が発生しかねません。
また、長い滞留年数や、評価条件のハードルが高すぎることで、昇格該当者が出てこなくなり、結果的に例外が頻発してルールが破綻する、ということもあります。
複雑かつ厳格な昇格審査は、ある程度多数の豊富な候補人材から選抜するからこそ成り立つ面もあります。このことを踏まえると、社員数が多くない(=人的資本に余力がない)状況においては、昇格ルールは組織運営上、柔軟に行えるようにしておくことが望ましいでしょう。
また、制度を作ることとは別の観点となりますが、そのように社員を選抜することに注力するよりも、社員のスキルアップに資する社内外の教育・研修の機会や自己成長を促す支援や風土作り等に注力したほうが、組織としての成長の観点からは得策と言えるでしょう。
二つを例に挙げたように、組織が急激に変化(会社の戦略の変化、社員数の増減・等級段階数の変動、職種数・組織体制の変動等)するうちは、基準やルールはあまり緻密にせず、複雑化しすぎず、現状と少し先を見た必要最低限の制度としておくと良いでしょう。また、制度の改定・建て増しがあることを、念頭に置いておくことも肝要です。
次回では、初めて構築する「給与制度」の注意事項について解説したいと思います。