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在宅勤務手当を検討する際の4つの論点

新型コロナウイルス感染症が拡大して以降、我が国でもテレワークが急速に普及しました。これに伴い、在宅勤務手当の支給を実施・検討する企業が増加していると見受けられます。
特に、テレワークとの親和性が高いIT系企業は、いち早く在宅勤務手当の支給実施を打ち出しているようです。ゲーム業界に限定した調査ですが、2020年6月時点で「在宅勤務手当が支給された」と回答した労働者は48.1%に上りました(注1)

筆者も近頃は在宅勤務手当に関するご相談を頂くことがありますが、実際に検討してみると思いのほか考えるべきことが多く、一筋縄ではいかないという実感があります。本稿では、そのような検討にあたって考慮すべき論点を述べます。なお、本稿の企業事例はすべて記事執筆時に一般に公表されている内容に基づいています。

 

論点①:支給方法
在宅勤務手当の支給方法は、大きく分けて4通りに整理できます。

 A. 毎月一律の金額を支給する
 B. 毎月の在宅勤務日数に応じて支給する
 C. 一時金を支給する
 D. 在宅勤務に伴い社員が負担した実費を補助する

事例(注2)に基づくと、方法Cを採るパターンがもっとも多く見受けられます。今後も在宅勤務が続くか不透明な中で、継続的な支給となる方法A・Bではなく、一時的な支給となる方法Cをひとまず選択した企業が多いと推察されます。支給範囲については、正社員のみ対象・パート等も含む全社員を対象など、各社各様といえます。
方法Dを他の方法と組み合わせる例もよく見られます。厳密には”手当”と呼べませんが、そのぶん後述のように賃金計算上の処理を考慮する必要がないため、実施しやすいようです。ただし、社員自宅の通信費・光熱費等は、業務に伴う支出と日常生活に伴う支出を区別することが難しく、明細に基づいて実費を支給するのは現実的ではないでしょう。また、机・パソコン等の物品購入費は、実費補助ではなく会社物品の貸与で対応することも考えられます。

 

論点②:支給金額
事例(注2)に基づくと、方法Aでは月額3,000~10,000円が相場と言えそうです。ただし、月額20,000円という突出した例もあります。方法Bでは日額300~500円という例が多く、月額に換算すると方法Aの相場と大差ないでしょう。
方法Cのように一時金を支給する場合の金額は、20,000~70,000円といった幅広い範囲に分布しています。さらに方法Dの実費補助と合わせた事例もあるため、一概に相場がいくらであるとは見定めがたいところです。

 

論点③:通勤交通費との兼ね合い
方法A・Bについては、通勤交通費との兼ね合いが問題になります。そもそも、出勤日数が通常より大幅に少ない場合、これまでと同額の通勤交通費を支給するのは不合理です。通勤交通費は出勤日数に応じた支給とし、その減額分を在宅勤務手当の原資に充てるのが妥当でしょう(ただし、出勤日数によっては必ずしもコスト減にならないことに留意)。実際、在宅勤務手当を毎月支給する企業において、通勤定期代の一律支給を廃止したり、通勤交通費を実費精算に変更したりする例が見られます。

 

論点④:賃金計算上の処理
ここでは詳述しませんが、方法A~Cについては賃金計算上の各種処理(残業代・所得税・社会保険・雇用保険等)にも影響するため注意が必要です。方法Dは、社員の負担に対する実費弁償であることを示せる限りは、賃金計算とは切り離して考えることができます。

さて、ここまで在宅勤務手当に関する各論点を述べましたが、実は検討の前提となるもっと重要な論点があります。お気づきのことかと思いますが、それは「何のために在宅勤務手当を支給するのか」という目的論です。テレワーク移行に伴う費用の補助なのか、従業員を鼓舞するためのカンフル剤なのか、今後も在宅勤務を定着させていくための布石なのか・・・等々の目的によって、上記の検討内容もまったく変わったものになると考えられます。

 

(注1):ゲーム開発者の在宅勤務に関するアンケート調査(コンピュータエンタテインメント協会, 2020年6月)
(注2):2020年4月以降に在宅勤務手当の支給を開始しており、かつその詳細を公表している企業の事例(弊社調査による14社。2020.7.3.現在)