人事評価に不満?その正体は
採用媒体系情報サイトなどで実施されている「退職理由」などのアンケートを見ると、「評価制度に不満があった」という回答が一定割合見られることがあります。また、企業の口コミサイトなどを見ていると「人事評価の適正感」といった評価項目があり、そこには様々な意見が記載されています。従業員サーベイでも、同じ類の設問はあるでしょう。
何かと“人事評価への不満”は、人事担当者の頭を悩ませる存在です。そんなこともあり、人事制度改定のご相談をいただく企業様からも「社員から評価に対する不満が上がっている。だから制度を見直したい」といったご相談もあります。
ところでこの「人事評価が不満」とは、どのような不満なのでしょうか。制度を改定すれば解決するものでしょうか。
そもそも「人事評価が不満」・・・は、何が問題?
一般論的に「人事評価に不満=自分の頑張りが、正当に見られていない。何にも反映されていない(と感じている)。頑張ってもしょうがない、という諦めにつながる」ということで、会社への不満や仕事そのものに対しての取り組み意欲低下につながる・・という方程式に則れば、不満はない方が望ましいでしょう。退職理由にも上げられるように、人事評価の不満が退職を決意する一つの要素になるのだとしたら、特に定着率に課題がある企業は気を配る必要性もあります。
ただし、だれがどのような割合で、どのような理由で不満を口にしているか?に目を向けることも大事です。
例えば、
・貢献度が高いとみなされる若年社員の多くが、人事評価に不満
・貢献度が低いとみなされる高年齢社員の多くが、人事評価に不満
では、状況も変わります。
前者は、転職しやすい優秀な若手人材の退職を引き起こすリスクが高いとも言えます。今後の組織を思うと、辞められてしまうと痛手です。後者は、不満を持つ社員自体の離職リスクは正直低いでしょう。また、辞めても痛手が少ないと言えるかもしれません(注:辞めなくても、やる気がないシニアぶら下がり社員が多くなり、活気がない組織になる…という別の問題に発展する潜在的リスクではあります)。
また、大多数不満or少数不満かでも、その人事評価不満の対処優先度は変わるでしょう。大多数が何か不満なのだとしたら、上記に挙げたようなリスクが併発するとも言えます。ごく少数が不満ということであれば、それはどういう人材カテゴリか?なぜ不満か?を見極め、対処の要否・方策を検討できるとよいでしょう。
「人事評価が不満」・・・は、何が不満?なぜ不満になる?
「人事評価が不満」には、いくつかのパターン・要因が考えられます。以下、独断で分類した表をもとに紐解いていきます。
評価される観点や内容に対する不満 |
■評価する基準が不明瞭(例:何をもって評価しているのか、全く不明な仕組み) ■評価する基準は明確だが、それに対して不満(例:①無理難題な営業ノルマ目標に対して達成率のみで評価される仕組みでプロセスは評価されない。②行き過ぎた減点主義で挑戦したくない・・など) ■評価する基準は明確だが、評価に差がつかない(例:どれだけ成果をあげても、だいたい同じ評価になる仕組み) ■評価する観点が、自社/職務/実態にあっていない、評価されるべき指標がない。(例:顧客への接遇態度を大事にしているが、それを評価される観点がない) |
評価の処遇反映に対する不満 |
■評価が高くても、賞与や昇給に大きく差がついていないと感じる ■評価が高くても、どのように昇格・昇進するのか、キャリアアップの手段が分からない ■評価によらず、昇格・昇進は結局年功序列であると感じる ■評価が低いと、減給・賞与減のインパクトが大きい(生活設計に支障をきたすレベル) |
制度の運用・プロセスに対する不満 |
■目標達成度評価であるが、期初に目標をすり合わせてないため、結果的にあいまいな判断と感じる ■評価がどのように決まっているか明確なルールがなく、または説明がなく、ブラックボックスが大きいと感じる ■評価のフィードバックがない、評価理由の説明が十分ではない ■評価のフィードバックはあるが、それに不満がある(例:自己評価との差に納得していない、ダメ出しばかりで承認されていない) ■上司が変わると評価が大きく変わるため、結局は上司の価値観で評価が決まると感じる・バラツキが大きいと感じる |
評価者に対する不満 |
■評価者を信頼していない・嫌い ■評価者が、自分の業務内容を把握していないと感じる ■評価者が、自分の専門スキルを理解していないと感じる |
他の社員・部署との比較に対する不満 |
■特定の社員がえこひいきされていると感じる ■特定の部署が有利・不利になっていると感じる |
評価されること自体への不満 |
■他人に評価されること自体が不満 ■他人に評価されることが、プレッシャーに感じる |
特定要因が悪さをしている場合もあれば、“AもBもCもできていないから、人事評価に不満”と、複合的に不満につながっているケースもあります。また、社員側の価値観も様々です。他者からの評価や、自分以外の社員の評価を気にする人物か、あるいはあまり気にしていない人物か、それによっても不満の出方は異なるでしょう。
いずれにせよ、要因を推察する前提では“制度が悪い!”と、短絡的な思考にならないよう注意が必要です。
では、どうずればよいか?どのようなケースが不満になりにくいか
反対に、「人事評価は適正と感じていて、不満度合いは低い」パターンはどのような例があるのでしょうか。顧客の現状、企業の口コミ等も参考に、以下3つの分類を見ていきたいと思います。
①【完全数字主義パターン】
営業系職種がメインの会社で、直接的金銭的報酬に価値を置く人にとっては、明快であることから納得性が高いようです。ほか、受託開発案件を行うIT企業などで、案件単価と連動するような会社もあります。
②【基本徹底パターン】
特にどの業種・職種に限定するものではありませんが、総じて自己認識と相違なく、まっとうな評価が受けられている、透明性が担保されていると実感できる運用プロセス・処遇反映であればあるほど、納得性が高いと推察されます。
③【多面的・民主的パターン】
大手外資コンサル会社などである例ですが、コンサル業は期間があるプロジェクトチームで仕事が進みます。そのため、そのプロジェクトに関わったプロジェクトマネジャーやその他同僚などの評価もヒアリングされ、多面的目線で評価が決定されフィードバックがされる仕組みは、一部の人物だけに偏らない評価体制に納得度が高いようです。
業務の特性上、複数人関与するプロジェクト単位で行われるようなケースで、かつ“人を評価することを好き嫌いではなく事実ベースで適切に同僚・上司評価が行えて、それを真摯に受け止められる”高度な人材の集合である場合、かつ、“一定人事評価工数に時間が割ける”企業は成り立つかもしれません。しかし一般的にはハードルは高い仕組みで(特に、処遇に反映させる場合)、却って関係性を悪化させるリスクもあると言えるため、形だけマネすることはあまりお勧めできません。
人事評価に不満がないならOKか?留意したいポイント
例えば、先に挙げた「人事評価は適正と感じていて、不満度合いは低い」とされる【完全数字主義パターン】は人事評価制度そのものへの不満は低いため、部分的には最適な状態かもしれません。一方、組織にとって万事OKか?という目線でみると、そうでもない場合もありえます。
従前は【完全数字主義パターン】のとある会社から、こんなご相談がありました。「これまで数値至上主義で管理職になり上がり、とにかく部下のノルマ未達を詰めるといったマネジメントスタイルで、現場に寄り添った育成や組織間連携、中長期的な戦略立案や顧客満足のための改善に関心が低い管理職が多い。また、そんなこともあってか人の入れ替わりも激しく、後継の人材育成が課題で・・・」。
結果にこだわることは大事で、達成意欲が高い社員も大切ですし、そうした社員が会社の成長を牽引されてきました。ただ、人材確保難の昨今人材定着率があまりにも低い=常に採用活動をしてなんとか組織を維持しなければならない、管理職が管理職としての役割が果たせていない(人もいる)ことは、発展的ではなく理想的な状態とは言えない状態である、とも心情を吐露されていました。
このことからも、人事評価の不満が少ないことをゴールにせず、組織のあるべき姿が実現できる評価システムであるか…を見据えておくことは留意すべき重要なポイントと言えるでしょう。
「人事評価が不満」への対策は必要だが、対処療法にならないように
人事評価への不満のパターン・要因は、前述したとおりいくつかの分類があります。
制度に不満が集まる傾向ということであれば、制度改定を検討する意義はあります。ただ、往々にして「きちんと丁寧な評価のフィードバックがない、または評価のフィードバックは上司次第になっている」という会社が一定割合で存在するように推察します。加えて「評価者と被評価者との信頼関係がない」など、評価制度自体を変えても、どうしようもない場合もあります。
「フィードバックがない」ことにも不満を持っている会社で、せっかく評価制度を変えても結局フィードバックをしないのであれば、改善にはなり得ません。これを引き起こさないためには、「評価のフィードバック徹底を社内に働きかける取り組み」が重要です。また、逆算的に、評価するための評価シートや制度上上司がフィードバックを行いにくい悩みのタネになる問題がある・・・というのであれば、当然そこも解消する“仕組み”に着目して、制度改定をすすめられるとよいでしょう。
加えてになりますが、残念ながら全社員が人事評価の不満がない…を目指すことは難しいです。
前述のとおり、他人評価を気にしやすい・気にしない・・・というパーソナリティ差もあります。また背景には評価者–被評価者の関係性もあり、対処療法ではどうにもしがたい部分もあり得ます。
さらに、低い評価の社員の方が何らか不満に感じやすい傾向もあるでしょうから、一定割合で不満は起こり得る可能性はあります。そのため、100%問題解決は難しい領域ではあります。
“特にこの対象者には、人事評価に不満をもたず、前向きに仕事に取り組んでほしい”という目標が8割くらい実現できれば及第点、と捉えておく方が人事担当としては精神的に良いのではないでしょうか。
また、留意したいポイントでも述べたように社員目線での人事評価制度そのものへの不満は少なくても、評価制度に起因する組織のマネジメントの在り方に不満が起こっている懸念がある、会社が思い描く組織や人材を作れていない…というのであれば、それは大きな問題です。
部分最適の実現や、とりあえずの対処療法だけに目を向けすぎず、広く組織全体へ波及する影響も踏まえて、人事評価制度の改定に取り組んで頂けると幸いです。