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人材育成を加速させる人事制度の3つのドライバー

企業の持続的成長に「人材育成」は欠かせません。特に最近は採用難や給与水準の上昇といった環境変化もあり、「人事制度を見直し、社員の成長をより後押ししたい」という相談を受ける機会が増えています。一方で、制度のどこを変えれば育成につながるのか、全体像をつかみづらいという声もよく耳にします。そこで本稿では、人材育成の視点から人事制度を3つのドライバーに整理し、育成を進めるうえでのポイントを紹介します。

 

■ドライバー①:方向づけ

 

最初に必要なのは、「どんな人材になってほしいのか」「どのような成果・貢献を期待するのか」を制度として明確に示すことです。方向づけに関わる主な仕組みは下記の通りです。

 

▪等級定義・基準(求める役割・能力・職務を示す)

▪評価項目・基準(成果や貢献をどのように図るのかを示す)

 

これらが曖昧なままだと、評価者は部下に何を求めればいいか迷いやすく、社員自身も「どこを伸ばせばいいのか」「どうすれば評価につながるのか」が見えにくくなります。方向性を示すことは、社員の成長を促すための最初のステップといえます。

 

■ドライバー②:動機づけ

 

次に求められるのが、「成長すれば正当に評価され、それがしっかり報われる」という仕組みです。動機づけに関わる制度には、次のようなものがあります。

 

▪給与改定ルール・賞与決定ルール(評価を給与・賞与に反映させる仕組み)

▪昇降格ルール(評価を昇降格に反映させる仕組み)

 

これらはいわゆる外発的動機づけですが、持続的に成長意欲を保つためには、内発的動機づけを促す仕組みも欠かせません。例えば、やりがいを感じられる仕事の機会、キャリア形成への支援、挑戦を歓迎する環境づくりなどが当てはまります。

 

特に近年は、若手ほど「納得のいく説明」や「成長実感のある環境」を重視する傾向があります。評価プロセスの透明性や説明機会が確保されているかも、動機づけを左右する大きな要素となります。

 

■ドライバー③:日常の支援

 

ここまでの2つは制度そのものに関わる内容でしたが、制度がどれほど整っていても、それだけでは育成は進みません。制度が地図だとすれば、育成を前に進めるのは、地図を使って社員を導く日々のマネジメント=運用 です。具体的には、以下のような取り組みが該当します。

 

▪評価者による目標設定の支援

▪定期的な1on1や対話の実施

▪評価フィードバックの実施

 

評価者が社員の状況を理解し、うまく制度を活用しながら、課題を示し背中を押す。その積み重ねが成長を具現化していきます。

 

ここで注意したいのは、日常の支援は評価者の力量や価値観によって差が生じやすい点です。組織として育成の力を高めていくために、例えば、評価者トレーニングやフィードバックの標準化、1on1の型の整備など、支援の質を底上げしていくための取り組みも欠かせません。

 

制度と運用が噛み合ってこそ、人材育成は機能するといえます。

 

■制度と運用はどちらが欠けても育成は機能しない

 

育成を制度側だけで解決しようとすると「形だけの制度」になり、逆に運用頼みになりすぎると「属人的な育成」になります。

 

重要なのは、

 

方向づけ(制度) × 動機づけ(制度) × 日常の支援(運用)

 

が噛み合った状態をつくることです。

 

この3つのドライバーが揃い、互いに連動し始めたとき、人材育成のスピードは大きく変わります。制度を見直すときは、どれか一つだけを改善するのではなく、「三つ巴で育成を押し上げる設計になっているか?」という視点をぜひ持っていただきたいと思います。

 

人材育成を目的とした人事制度の見直しを検討される際に、本稿が少しでもヒントになれば幸いです。

執筆者

辻 輝章 | 人事戦略研究所 シニアコンサルタント

自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。