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人事担当者の悩み② 部下からの「評価制度に関する質問」に答えられない上司

■人事担当者Nさんの悩み

「うちの評価制度って、給料やボーナスにどう結びついているんですか?」

眉をひそめながら部下からこう問いかけられたときに、

 

「うーん、実は自分もよく分かっていないんだよね」と答える上司。

「まあ、頑張っていたら給料は上がるし、そのうち昇格もできるよ」とお茶を濁す上司。

 

5年前に今の評価制度に改定したK社では、毎年、人事評価の結果をもとに公正に処遇を決める手続きを取っています。

人事評価の実施を通じて昇給・昇格の決定に関わっているにもかかわらず、上記のように質問に答えられない上司たちに対し、人事担当者のNさんは頭を抱えていました。

 

この上司の対応では、部下は「自分の頑張りと関係なく、何となく評価され、何となく処遇が決定されている」ように感じるでしょう。結果として「人事評価なんて形だけのもの」「評価者の好き嫌いや、目立つ活躍をした印象で決まってしまう運任せのもの」という不信感を招き、評価制度に対する期待が失われていきました。

 

■なぜ上司(評価者)は「自社の評価制度に関する質問」に答えられないのか

部下からの質問に対して適切に答えられない理由の観点は、大きく2つに分けられます。

 

Ⅰ.評価制度について「十分に理解していない」

上司が評価制度について十分に理解していなければ、部下からの質問に適切に答えることができません。

このようなことが起こる背景に、下記3つの要因が考えられます。

 

 1.評価制度について説明を受ける機会が少ない

多くの企業では評価制度の導入・改定時に社員向け説明会を実施しますが、それ以降はフォローがないことも多いのではないでしょうか。また、人事評価は年に1度や半年に1度など、接する頻度が少ないこともあり、「評価制度はどのように処遇に結びついているのか」を忘れてしまうこともあります。

 

 2.説明資料がない/わかりにくい

今の評価制度になった背景や詳細なルールを示す資料が存在しない場合があります。また、説明資料があっても専門用語が多い、文字情報中心で理解し難いなどの理由で、「評価者が自分の言葉で説明できる」レベルの理解をサポートするツールになっていないことがあります。

 

 3.詳細な運用ルールが非公開となっている

具体的な評価基準や給与・処遇決定プロセスがブラックボックス化しており、評価者にも詳細情報は開示されていないケースもあります。柔軟な運用を可能にするために一部分情報を非公開にすることはありますが、大部分が非公開となっている場合、評価者は制度の全体像を理解することができない=説明のしようがない、となりかねません。

 

Ⅱ.評価制度は理解しているが、「部下にうまく伝えられない」

上司が評価制度を理解していても、部下にうまく伝えられないことがあります。

具体的には下記2つの要因が考えられます。

 

 4.評価者の役割認識が欠如している

評価者が「自分の仕事は評価を付けるまで」と思い込み、部下への説明責任は認識していない場合があります。処遇決定の説明や制度に関する質問への回答は、経営側や人事部が行うべきというスタンスのため、「上司(評価者)が回答しなくていい」「適当に受け流しておこう」と考える評価者が一定数存在することも想定されます。

 

 5.評価者が納得感ある説明をする自信がない

「間違ったことを言ってはいけない」という心情や、「そもそも評価制度に不満があり、自分の口から積極的に説明したくない(制度批判を言いかねない)」という心情から、はぐらかした回答をすることも想定されます。また、「正しく回答しても、部下は納得できないだろう」という諦めが先立ち、回答を避ける場合もあります。

 

■部下からの「評価制度に関する質問」に、上司が答えられるようにする方法

上記のような要因が、上司が部下からの質問にうまく答えられない背景にはあるものの、そもそも人事部として「答えられる状態」を十分に整備しきれていない側面もあるかもしれません。そのような視点から、人事部として以下のような施策に取り組んでいくことが大切です。

 

 1.研修などで評価者へ学びの機会を提供する

定期的に、人事評価の適切な付け方や評価結果の処遇反映方法などについて、理解の浸透を促す研修などの場を設けることが大切です。その際、単純に仕組みを説明するだけでなく、「なぜこのような評価制度になっているのか?」「自社の評価・処遇のポリシーは?」など、設計背景や考え方を伝えていくことが肝要です。

 

 2.評価者が理解しやすい/説明しやすい資料を作る

評価者自身でいつでも確認ができる「評価制度説明資料」を作成しておくことが大切です。図解なども効果的に使いながら、視覚的に分かりやすい資料を作成することをおすすめします。

また、既にある場合でも「評価者が自身の言葉で説明できるような、補助ツールになっているか」という観点で、改めて見直すとよいでしょう。

 

 3.運用ルールの公開範囲と非公開範囲を整理する

開示できない部分が一定あることは仕方がありませんが、「なぜ開示しないのか」が曖昧になっている部分があれば、社内協議の上で公開範囲を見直す余地はあるでしょう。可能な範囲でオープンにすることで、評価者を含む社員にとっての制度理解にもつながりますし、「結局、最後は会社が全部調整しているから評価は形式的」といった評価制度不信の防止にもつながります。

 

 4.評価者が果たすべき役割認識を理解させる

研修の場などを活用して、人事部から評価者へ「評価という部下のキャリアを左右する大事な仕事を任せている。そのため、評価者の役割責任には、会社が定めている評価制度を理解し、部下にもそれを伝えて浸透させることも含まれている」と伝えると良いでしょう。

 

 5.評価者自身の疑問を解消にするサポート体制を作る

評価者が回答に迷わないよう、事前によくある質問集(FAQ集)をまとめておくのも有効です。そのほか、相談・問い合わせ窓口(例えば人事部の○○さん)を明確にしておくと良いでしょう。

また、評価者が不満・疑問に思っていることは、個別対話を通じて解消を図ることも大切です。人事担当者も「こう決まっているのだから、こう説明・対処してください」という杓子定規な対応にならないよう、どのような観点に不満・疑問が生じているかを確認し、丁寧なコミュニケーションを心掛けることも重要です。

 

■社員が評価制度を「自分ごと」として捉えられるように

上記の施策を地道に続けたK社では、評価制度の内容を理解する必要性を感じ、自ら説明しようとする上司が少しずつ増えてきました。

その変化に伴い、部下の納得感も高まり、評価制度に対する信頼が組織に根づきつつあるそうです。

 

評価制度は、ただ仕組みを作るだけではうまく機能しません。

制度の目的や仕組みが社員に十分理解・浸透されることで、社員の動機付けや人材育成の効果を発揮できるよう、

制度運用の工夫策として本コラムを参考にしていただければ幸いです。

執筆者

田中 花 | 人事戦略研究所 コンサルタント

大学では、地域に根差した企業活動について学び、製造・卸売・小売・飲食・農業協同組合へ事業に関するヒアリングを行う。その中で、後継者問題等の業界課題や、企業と消費者の接点が少ない等の現状を知り、少しでも経営者の役に立てることをしたいと思い、新経営サービスに入社。多様な経営課題を抱える中小企業の経営者に、「まず先に相談しよう」と思ってもらえる経営コンサルタントを目指し、日々活動している。