AI活用普及時代で、求められる人材像は変わるのか?
近年、生成AIをはじめとする技術の進化は目覚ましいものです。情報収集・分析、資料・文書作成など事務的タスクはもちろん、プログラミング、画像・音楽・動画作成といったクリエイティブ領域の生成まで可能になっています。情報正確性、機密情報取り扱い、品質面の懸念があるとはいえ、専門性・複雑性が高くない業務・タスク領域なら生成AIは実用的になり、また活用も市民権を得つつあります。
■一般事務が存続しなくなる未来?
各種メディアやシンクタンク等でも既に発信されているように、例えば一般事務職(定型的タスク要素が強く、判断もある程度パターン化しやすい)は、生成AI・RPAなどのIT技術で代替されると言われています。実際既に、代替されている部分はあるでしょう。また、直近数年の技術進歩や世間一般への普及スピードを踏まえても、加速度的に代替が進む可能性は高いかもしれません。
事務職は依然多くの企業に存在しますが、現在賃金水準を踏まえると1人のフルタイム社員を雇用するには、諸々含め最低でも年間400万円程度以上人件費が必要でしょう。10人雇用など人数が増えれば中小企業にとって無視できない金額です。
雇用する前提には仕事があってのことです。しかし、経営目線で見れば技術で代替可能な業務なら、年間400万円/人をかけ人間が行う必要はない、人は人がやるべき仕事をすべきと考えるのが自然でしょう。この論調はメディアで発信されたり有名企業経営者も発信されたりしていますが、ここ数年ご支援先の中小企業経営者の方々も、そうした発信の影響か経営課題と捉える方も増えたように感じます。
単純作業を10人で人海戦術的にこなすチームより、業務設計と運用改善ができる優秀な事務リーダー1人+実務担当者(4人+AI等ツール)のチームの方が、人件費は圧倒的に抑えられる。後者の場合、人件費以外のイニシャルコスト(前提に何らか体制・システムを構築する工数・費用)や運用費も掛かるかもしれませんが、上手くいけば中長期にコストパフォーマンスが高まる可能性があります。また、削減できた人件費(人員)を、新規の取り組みや「人でなければできない仕事」をする人材に投資して付加価値を増やすことができ、さらに社員に還元できれば、1人当たり人件費予算が上がり、社員満足度も向上しますし、採用時も優位な条件を示しやすくなります。そうした「好循環」をつくることが、今後の人事戦略として益々重要になるのでしょう。
■人事の戦略、求める人材像が変わるか
こうしたことも踏まえると、中長期的に人材ポートフォリオも変化することになりそうですが、前提に事務職に求められるスキル・キャリアパスを再定義する必要があるかもしれません。特に正社員であれば、定型業務を言われた通り正しくこなせる人材が必要なくなる。定型業務⇒それを指導できる⇒その集団(業務)を監督する、といったキャリアステップ自体が必要なくなるかもしれません。
業務構造を理解・整理し、創造的に考え仕組みをつくり、作業は人でないツールに任せ(当然、ツールの理解が必要)、アウトプットの品質をチェックし、仕組みの改善を回す“スーパー事務人材“が益々重要になります。つまり、いきなりほぼ監督レベル+αの要求からスタートします。
そうすると、新卒など未経験採用時点の求める人材像から、中小企業でもハードルを上げ採用する必要もありえます。あるいは、初期からそのつもりで徹底的に教育していくなど、抜本的に採用・教育・評価の在り方の再考が、求められる時期に来ているかもしれません(技術発展で、そもそも指揮・監督役すら不要になる可能性はありますが2025年時点見解として)。
■“スーパー事務人材”を、どのように自社につくる?
そうした体制に移行するには、具体的に何から手を付ければ良いでしょうか。早い手段は、外部からの人材調達(=フルタイム採用or副業人材or業務委託など)です。 その人に体制改革を任せ、また社内に指導してもらう。ただし、自社にフィットする優秀人材を確保することは容易ではありません。タイミングと縁も影響します。前提に、現時点で採用・調達できる魅力的な条件を提示できるか、採用競争力ある会社であるのか、という観点もあります。
いずれにしても、社内から“スーパー事務人材”を作る育成戦略も重要でしょう。所謂、国が掲げるリスキリング施策(政策狙いはどうあれ)に該当する部分もありますし、土台にソフトスキルやポータブルスキルと言われるような類の、職種によらず普遍的に要求される“課題解決能力”など汎用的業務推進スキル向上も同時に求められるでしょう。
リスキリングと簡単に言っても、慣れた業務を変える、今までと異なる領域の習得、役割発揮を求められることは抵抗を持つものです。自己研鑽に励むこと自体難しい(「私は今のままで満足。なぜやる必要が?そんなつもりで入社してない」)と捉える社員も実際いるでしょう。社員全員がリスキルできるものかというと、現実は無理があるかもしれません。
しかし、少数でも変化に適応し求められる力を発揮できる人材が生まれれば、組織も変わる可能性はあるでしょう。重要なことは、“やる気と素養あるキーマン”を見出し、その人を起点に物事が進むように教育機会、職務機会を与え、やる気を阻害しない環境を作る。
また、そうした人材が“スーパー事務”にレベルアップした挙句「この会社ではなく、もっと違う環境で活躍したい(orもっと収入稼ぎたい)」と流出していかないよう、リテンション施策(エンゲージメント向上、処遇改善)はセットで考えたいところです。
■時代に取り残されないために変革・バージョンアップしていく
わが社みたいな中小・零細企業でも、本当にこんなこと考える必要ある?と思っているうちに、時代に取り残され生産性が低い組織の悪循環にならないよう、時流は掴んで打つ手を考えておきたいものです。
歴史を遡れば、産業革命期や産業発展段階によって、大なり小なりの職務消滅、職務価値変化、新たな職務発生、職業構造変化、企業における求める人材変化もこれまでもあったのです。今回のテーマは、第四次産業革命時代の現在における事務職を題材に記事をまとめていますが、その他の職種・職務も変化があることは必至でしょう。いつの時代も変化に適応しつつ古い時代に取り残されないよう、経営戦略、人事戦略、求める人材像や人事制度も変革していく必要があるという、至ってシンプルな話です。もちろん筆者の私自身含めワーカー側も、淘汰されたくないならば常にバージョンアップは続けていきたいものです。