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人事制度を見直すときは 「誰をどう巻き込むか」 が形骸化しないコツ!

人事制度の見直しでは、「制度そのものの良し悪し」が議論の中心になりがちです。しかし実は、制度内容と同じくらい重要なのが「誰をどのような形でプロジェクトに巻き込むか」という視点です。設計段階から巻き込み方に配慮することが、新制度を形骸化させないコツです。

 

■形骸化とはどういう状態か

人事制度における形骸化とは、制度が存在しているにもかかわらず、その通りに運用されていない状態を指します。例えば、次のような状態が挙げられます。

・昇格ルールを作ったのに、上司が独自の基準で昇格者を選定し、そのまま通ってしまっている

・評価基準があるのに、評価者は根拠なく(被評価者へのイメージで)評価してしまっている

こうした状態になると、新制度で描いていたような効果は見込めません。

 

また、形骸化を招く背景には大きく次の2つがあります。

分類

背景

結果

中身の問題

・評価者が制度の内容に納得していない

制度通りに運用する気にならない

巻き込み方の問題

・社員が制度の意図や内容を理解していない

・「制度が機能するかどうかは自分たちの運用次第」とは考えず、評価者は制度の理解を深めようとしていない

制度への当事者意識が薄くなる

 

形骸化は、制度の「中身の問題」と捉えがちです。しかし実は、制度設計時の巻き込み方も大きな要因となります。

 

■誰をどう巻き込むか

人事制度改定プロジェクト(以下PJ)の主要メンバーは、規模にもよりますが、経営者や人事部(人事部長や人事課長、担当者等)で構成されることが一般的です。しかし、形骸化しないためには、さらに誰をどの段階でどのように巻き込むべきかが重要です。

 

一般社員を巻き込む

制度を見直す前の巻き込み方として、アンケートやヒアリングで現行制度への不満や改善ニーズを一般社員から収集することが考えられます。収集する場合は、質問項目を工夫することが肝要です。例えば「人事制度について不満や改善してほしいことはありますか?」とだけでは、評価制度についてのみ回答する社員が多くなる傾向があります。そこで等級制度・評価制度・賃金制度の3つについてまんべんなく聞くと良いでしょう。例えば、下記のような項目が挙げられます。

 

等級制度:「今の役職は適正だと感じるか」「当社で管理職になりたいと思うか」

評価制度:「評価項目の数は適切と感じるか」「評価結果のフィードバック方法に満足しているか」

賃金制度:「評価がどのように賃金に反映されているか理解しているか」「改善してほしい手当はあるか」

 

社員の人事制度に対する納得度や理解度を測定するのであれば選択式、より詳細なニーズを確認したいのであれば記述式など、質問形態にもこだわるとより良い回答を得られるでしょう。

ただし、社内の状況や質問方法によっては単なる愚痴のようなものばかりが集まり、制度改定に活かせない懸念があります。そればかりか、回答に対してフィードバックがなければ「言っても無駄」と不信感に繋がるリスクもあります。そのため、一般社員からは情報を収集しない選択肢もあります。もし収集する場合は、新制度を説明する際に「○○という意見を考慮し、△△のような制度に変えました」「○○という意見が出ましたが、会社理念や人事方針では▲▲のため、今回は見送ることになりました」と、フィードバックすることをおすすめします。

 

部門長(=評価者)を巻き込む

新制度の検討を始める前に、部門長へ経営視点に立った課題感をヒアリングしましょう。例えば「高評価を取っても、給与や賞与に反映されたように感じない・モチベーションが上がらない、という社員が多い。評価結果がもう少しダイレクトに反映される仕組みの方が良いのでは」といった意見が得られるかもしれません。

また、意見を集める際は、特定の部署に偏らないよう全体から均等に集めることにも配慮します。このように多様な意見を聞くことで、「自分たちの意見が反映される制度」と当事者意識につながり、制度への関心が高まります。

 

その後、具体的に制度内容を検討する段階では、評価者に等級基準の内容を共有しましょう。すでに等級基準がある企業で内容を変更した場合は、変更点やその理由を評価者に説明します。今回初めて等級基準を作成した場合は、作成目的から丁寧に伝えましょう。

そのうえで、PJメンバーが検討した社員一人ひとりの等級格付けを、評価者に確認・修正してもらいます。確認の際は、好き嫌いや印象で判断されないよう、「社員の等級はこの等級基準に基づいて決定される」ことを明確に示すことが大切です。こうしたプロセスを踏むことで、制度改定時の等級格付けだけでなく、制度導入後に評価者が独自の基準で昇格者を選定することを抑制できます。

 

また、PJメンバーが検討した評価基準も、評価者に確認してもらいましょう。流れとしては、試しに数名の社員を新しい評価基準で評価してもらい、評価のしやすさや差のつき方について意見をもらいながら、認識のすり合わせや評価制度のブラッシュアップを行うと良いでしょう。

そうすることで、実際の評価のタイミングで、「こんな評価基準では評価できない/しにくい」という意見は出にくくなり、評価者が基準を度外視した印象評価を行うなどの形骸化を予防できます。

 

 

■おわりに

制度検討段階における人事部以外の社員の巻き込み方を説明してきましたが、これには情報統制の観点から一定のリスクがあります。例えば、方針検討段階で社員を巻き込む場合、方針について説明を受けていないメンバーにも未確定の方針が広まることがあります。誤った認識をされたり、その後方針が大きく転換した際に「聞いていた話と違う」と不満が出たりと、人事制度に対する不満が高まるリスクがあります。一方で、必要以上に秘匿しながら検討を進めていくと、社員は「突然人事制度が変わった」と感じ、自分ごとに感じることが難しくなります。そのため、変更の可能性が高い事柄は不用意に説明しないようにするなど、情報統制に留意しながら意図をもって社員を巻き込んでいきましょう。

 

様々なメンバーを効果的に巻き込みながら制度を作った後は、新制度を十分に理解し運用できるよう、全社員向けの説明会や評価者向けの研修を実施します。このように、制度導入前に新制度を形骸化させない工夫を行うと良いでしょう。

執筆者

田中 花 | 人事戦略研究所 コンサルタント

大学では、地域に根差した企業活動について学び、製造・卸売・小売・飲食・農業協同組合へ事業に関するヒアリングを行う。その中で、後継者問題等の業界課題や、企業と消費者の接点が少ない等の現状を知り、少しでも経営者の役に立てることをしたいと思い、新経営サービスに入社。多様な経営課題を抱える中小企業の経営者に、「まず先に相談しよう」と思ってもらえる経営コンサルタントを目指し、日々活動している。