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「役職でよぶ」か「さん付け(役職でよばない)」か

皆様の企業では、以下どちらでしょうか。
 
 ■役職でよぶ…役職者は「●●課長」「●●部長」と、役職を付けてよぶ
 ■さん付け(役職でよばない)…役職によらず、全員「●●さん」とよぶ
 
どちらも組織文化で是非はあるでしょうが、特に人事制度改定時や役職ポストの運用という点において「役職でよぶ(○○部長)」ほうが、困難が生じるという印象です。
 
「役職でよぶ」とどのような困難が生じるか
①従来の役職手当を廃止しにくい(制度改定)
たとえば副係長など、組織図に紐づく明確な役割が定められていない “役職(単純な肩書)”が存在するケースがあります。営業戦略上の対外用肩書はあってよいと思いますが、厄介なことにその“名ばかり役職”に対して、手当が支給されていることがあります(中小企業では特に)。なぜそうしていたかですが「能力か年功か何らかの判断軸で、当該社員が上位であるため」など、理由は組織役割以外にある模様です。
制度改定検討時に、そうした組織の責任を負っていない役職自体は必要ない、手当する必要はないのではないかという議論が生じます。しかし、役職でよぶようにしている経緯から、役職の存在を失くすと本人のモチベーション上良くないのではないか…など廃止反対意見が出てくるなど、受け入れ難いためか議論が紛糾することもしばしばあります。
 
②役職や組織を変更しにくい(制度運用)
役職が組織図に紐づくポストとする場合、一般的に組織要請によって役職を変更する場合があります。例えば、統廃合によって課が一つになることで、1名課長職を解くなど。また、本人が当該役職の責務が果たせない場合、役職を解くこともあります。
役職を外れれば当然呼び名はなくなりますが、そうするとステータスを失った感が一層際立ちます。
そのため、(互いの顔が見える中小企業であるほど)経営陣が躊躇して役職の入れ替えができない、○○室など特に必要ないポストや、名ばかり管理職(例:担当課長)を増産する…というように、人を見て組織をつくる事態に陥ることも見受けられます。
 
「さん付け(役職でよばない)」と、“責任感”が希薄になる、は本当なのか?
「さん付け」になると役職者が自らの責任を意識しにくくなる懸念がある、という意見もあります。確かに、毎日役職でよばれれば、“私は○○部長だ”と、自ら管理的地位にあることが潜在意識に刷り込まれるでしょう。
 
一方、「さん付け」でよばれている役職者は、役職者としての責任感が希薄なのでしょうか。
私見ですがご支援企業様含め 「さん付け」で呼ばれている役職の方を思い返しても、「さん付け」であるがために、責任感が希薄であるとは感じません。内部実態は分かりかねますが、外部目線でもあまり差を感じにくいところです。
反対に、“○○部長“とよばれていても、「彼らはいつまでたっても、プレイヤー意識が強いんだよね…」と、経営陣がポロリと述べることもあります。
 
結局は、よばれ方によらず個々がその果たすべき役割を認識しているか、という点が大きいと思われます。
“役職(責任)がある”という実感が得られるような仕掛けは大事ですが、それはよばれ方以外にもあるでしょう。例えば、与える報酬や権限の工夫、研修・面談や、評価機会などを通じて果たすべき役割責任について認識をそろえるなど、地道なプロセスが大事でしょう。
それらの工夫やプロセスを怠ると、“課長になったが、特に仕事の大半は今までと変わらない。面倒な管理業務が付加されただけ”という、プレイヤー意識に比重が置かれているままの管理職や、反対に“私は○○部長だから偉いんだ”と、社内地位が高いことを勘違いするだけの社員が出来上がってしまいます。
 
まとめ
企業における「役職でよぶ」と「さん付け」文化の違いには、それぞれ良さもあります。「役職でよぶ」は社内における序列感を相互に明確に意識しやすい。反対に「さん付け」は、役職によらずよびかけやすい、役職に変化が生じても戸惑いが少ないなど、組織風土醸成に影響はあるでしょう。

しかし、「役職でよぶ」企業では、制度改定や役職変更が困難になりやすく、組織運営において課題が生じることも確かです。一方、「さん付け」を採用する企業では、役職者の責任感に影響が出るとの懸念もあるともいわれますが、重要なことはよび方によらず、役職者が果たすべき役割を認識する工夫やプロセスが、組織づくりのために肝要でしょう。

執筆者

本阪 恵美 | 人事戦略研究所 コンサルタント

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。