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「他の項目が3点ばかりだから4点に」はアリか?―評価者の「評価決定力」を考える

1.ある模擬評価の場面

※本稿では、「3点を中央とする5段階評価(評価点:1~5点)」を前提にします。考え方は変わりませんので、自社の評価点数・ランクに置き換えてお読みください。

 

「3点か4点で迷いました。ただ、他の項目は3点が多かったので、この項目では4点にしています」

 

ある会社の評価者研修の模擬評価ワークで、意見交換中に聞かれた発言です。

筆者はこれを聞き、違和感を抱きました。「その決め方は、正しいのか?」

講師の立場としては「あくまでも事実と基準を参考にしてください」と注意すべきです。ただ、実際の現場では「項目同士のバランスを考慮して決める」ことは行われているため、判断を単に否定するだけでなく、なぜ他項目とのバランスを判断のよりどころにしたのか、その背景を考える必要があると考えました。。

この場合、判断の決め手になるのは、評価の決定理由をどこに置くかです。基本的に評価では、行動事実と評価基準を照らし合わせて点数をつけるべきです。「3点が多いから」を理由にする評価は公正とはいえません。しかし現実には「根拠となる事実はある、評価基準も十分に検討した。その上で、点数がどちらかに絞り切れない」状況は発生します。そのとき、評価者はどう判断すべきでしょうか。また判断に迷う評価者が多い場合、制度を設計・運用する側には何ができるでしょうか。

 

本稿では評価者が判断に迷った際、事実と基準で説明できる範囲で、自分の意志で評価を決める力を「評価決定力」と呼び、この力が重要である理由、ならびに高めるための視点を整理します。

なお、一般に評価スキルというと、評価の根拠を示して説明する、評価エラーを防ぐといった基本的な能力を指すことが多いです。本稿では評価スキルを土台に、一歩進んで「決め切れない場面で決める力」に絞った言葉として、評価決定力を用います。

 

2.なぜ「3点ばかり」を避けたくなるのか?:問題は「決定理由」の置き方

冒頭の評価者は、なぜ「3点ばかり」を避けたかったのでしょうか。

筆者自身、評価シートで3点が続くときは「強いていえば4点、2点にあたる根拠」を探すことが多いです。その心理は「適当につけたと思われそう」「『中心化傾向』と指摘されるかも」といったものでしょうか。3点ばかりだと、むしろ評価者の姿勢や評価エラーを疑われるかもしれないと思うのです。

しかしこの場合の「強いていえば」は、被評価者の行動事実を思い返すきっかけに留めています。点数を変えてよいのは、該当する行動事実が見つかったときだけです。

 

このように評価では、他項目とのバランス、周囲からの見られ方を意識してしまうものです。そのこと自体は止めることはできません。

問題になるのは、それを決定理由にしてしまう場合です。「3点ばかりを避けるため」に4点とした場合、4点の根拠として指摘できる事実がなければ、被評価者に「なぜ4点なんですか?」と聞かれても説明ができません。

 

3.評価の「余白」は意思決定のしどころ

難しいのは、行動事実は存在するが、それが3点とも4点とも受け取れる場合です。どちらの点数でも説明は可能ですが、どちらがふさわしいかの判断は評価者に委ねられています。

これは制度上の限界です。あらゆる業務のケースを漏れなく判断できる「完璧な評価基準」を作ることはできず、ある行動が何点にあたるかは、最終的に評価者の主観に頼らざるをえません。評価制度には構造的な「余白」があるのです。

 

これは必ずしも悪いことではありません。評価制度の余白は、評価者の「マネージャーとしての判断」で埋めるべきものだからです。事実と基準だけで決められない場合、評価者はマネジメントの観点で考え、被評価者への説明や影響に責任をもつ前提で、自ら評価を決める。この力が、冒頭で述べた評価決定力です。

たとえば3点と4点で迷った末に3点とすれば、「何が足りなかったのか」という不満が出るかもしれません。評価者には「何が足りなかったか」「今後何ができれば上がるか」を説明する責任があります。4点とした場合も、満足してかえって意欲が緩み、成長の余地が見過ごされる可能性があります。評価者は、結果がもたらす反応や影響を考慮した上で、自らの意志と責任で決めなくてはなりません。

これは被評価者を管理する立場としての意思決定の一つです。評価者が評価を自ら決める力を発揮できれば、評価制度は「点数をつけ、処遇に反映する」仕組みから「人が人の働きぶりを測り、会社や人材の成長に活かす」マネジメントの手段として機能します。

 

ただし、評価者の意志で余白を埋めてよいのは、あくまで評価が公正に説明できる範囲に限ります。迷った際は、必ず次の2点を確認してください。

 

①根拠となる行動事実があるか?
決定理由となる事実がない場合、「バランスを調整したから」「今後の期待を込めたから」を理由にすることは公正ではありません。


②
その評価は、マネジメントの目的に適っているか?
「嫌われたくないから評価を甘くつける」等は適切ではありません。最終的に評価者の判断に委ねられるからこそ、基準は個人の損得や好き嫌いではなく、マネジメントの観点に沿うものであるべきです。

 

4.経営者・人事部への示唆

「評価基準が曖昧で決めづらい」という不満は、非常によく聞かれます。このとき、制度設計の側は、基準を詳細にすることを考えがちです。もちろん見直すべき場合もありますが、評価者自身の評価決定力の低さが要因である可能性も合わせて考えるべきです。前述の通り、評価制度の「余白」を減らすことには限界があるからです。

 

では、評価決定力はどう高められるのでしょうか。ここでは2つの視点を挙げます。

 

✓評価結果がもたらす影響を知る
評価の結果、被評価者にどんな反応、影響があるかを知ります。顔色を窺うためではなく、起こる結果を予測して備えるためです。

日頃の接点、過去の評価結果、面談での反応などから、どう伝えると意欲が高まるか、結果をどう用いれば改善や成長に活かせそうかを観察します。

 

✓評価者としての態度を決める
評価を通して、被評価者の成果や成長をどうしていきたいかを考えます。評価結果をただ円滑に伝えるだけでなく、今後の行動変容や人材開発にどう生かすかまで見通す。そのうえで、マネージャーとして評価と被評価者に向き合う態度を決めることが重要です。

 

これらを実現する具体的な手法としては、評価フィードバック面談の推進と実施サポート、評価者同士が目線を合わせ、「評価者としての態度」を磨く意見交換の場を設けること等が挙げられます。

ただし、すでに同様の施策を実施している会社も多いでしょう。その場合も、ぜひ一度立ち止まり、「わが社の評価者は本当に『評価決定力』を高められているか?」という視点から、施策の内容や効果性を点検してみることをお勧めします。

執筆者

増田 あかり | 人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、一社目は製造業で生産管理を経験。
前職では大学生の就職支援に従事する中、人と仕事、人と組織の課題に向き合うことの難しさとやりがいを実感。
より中長期的な視点で組織と人の成長を支援したいという想いから新経営サービスに入社、顧客の想いに寄り添うコンサルタントを目指し日々活動している。