人事制度の見直し前に、会社にも”健康診断”を ―初めてでもできる3つの人事分析―
評価制度を作りたい、給与テーブルを刷新したい…。人事制度の見直しは、こうした“やりたいこと“から始まることが少なくありません。しかし、自社のどこに問題があるのかを数字で確かめないまま進めると、制度改定が的外れになるおそれがあります。医師がまず問診や検査で原因を確かめてから治療方針を決めるように、人事制度の見直しでも、制度改定に着手する前に自社の状態を数字で診断することが大切です。それが人事分析です。
本稿では、人事分析に初めて取り組む方に向けて、決算書や給与台帳など手元にあるデータから始めることができる3つの分析をご紹介します。
■チェック①:人件費分析 ―会社の「稼ぐ力」に対して、人件費は重すぎないか
人件費は、経営へのインパクトが大きい費用の一つです。人件費分析でまず確認したいのは、「業績と人件費のバランス」が取れているかどうかです。業績が伸びたときには人件費も増え、落ちたときには抑えられている状態が保てているかを見ます。このバランスを測る指標としてよく用いられるのが「売上高対人件費率」です。では、次のようなケースはどう判断すればよいでしょうか。
▪売上高対人件費率も昨年と同じ15%のため、「問題なし」と判断した
▪ただし、仕入価格の上昇により、粗利は3億円から2.5億円に減っていた
売上高対人件費率だけを見れば問題はなさそうですが、このケースには注意が必要です。売上高には、仕入代金や材料費、外注費など、社外への支払いに回るお金が含まれています。社員の給与の原資となるのは、売上高からそれらを差し引いた“会社が自ら生み出した稼ぎ“であり、これを「付加価値」と呼びます。小売業であれば、粗利がおおむねこれにあたります。このケースでは、給与の源泉である付加価値が目減りしているのに、人件費は変わらず出ていっています。その分、利益を圧迫している可能性があります。
そこで、売上高対人件費率とあわせて確認したいのが、付加価値に占める人件費の割合を示す「労働分配率」です。先ほどの例で計算すると、昨年の50%(1.5億円÷3億円)から今年は60%(1.5億円÷2.5億円)へと上昇しており、売上高対人件費率では見えなかった変化が表れます。労働分配率は概ね50%前後が一つの目安とされますが、業種による差もあるため、同業データや自社の過去5年ほどの推移と比べましょう。ただし、低ければよいわけではありません。大切なのは、自社の方針に沿った水準を保てているかどうかです。
労働分配率が高すぎる場合、その背景には、人件費側の「社員数」や「一人当たりの給与水準」の問題だけではなく、付加価値側の問題も考えられます。付加価値を高めることも重要ですが、ここでは人件費側に目を向け、まず「一人当たりの給与水準」に着目してみましょう。
■チェック②:給与水準分析 ―給与は「世間」と「社内」の両方から見て納得できる水準か
人件費の総額だけでは、その人件費が適切な水準・配分になっているかまでは分かりません。給与が低すぎれば採用や定着が難しくなり、配り方に偏りがあれば社員の不満や意欲低下につながることもあります。
世間との比較には、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が参考になります。業種・規模・地域などで自社に近い条件に絞り、年収だけでなく、月給(残業代を含む・含まない)や賞与にも分けて比べてみてください。例えば、「年収は世間並みだが、賞与頼みで月給は低い」と分かれば、求人票の比較で採用に不利になっている可能性が見えてきます。
社内のバランスは、横軸に年齢、縦軸に給与をとった散布図を、役職別に色分けすると一目で分かります。特に注意したいのが、残業代を含めると部下の給与が上司を上回るケースです。「管理職になると損をする」と受け止められれば、昇進を望む社員が減ってしまうおそれがあります。ただし、こうした場合も、すぐに役職手当を引き上げようと判断するのではなく、まずは残業が特定の人や部署に偏っていないかなど、背景にある要因を確認することが大切です。
■チェック③:人員構成分析 ―5年後・10年後も組織が回る人員構成か
人件費分析と給与水準分析が「今」の状態を確かめるものだとすれば、人員構成分析は「これから」を見通すためのものです。特定の年代に人が偏っていると、数年後に人件費が急に膨らんだり、管理職の後継者が不足したりしかねません。また、偏りの解消には時間がかかるため、早めの把握が肝心です。まずは5歳刻みの年齢層ごとの人数を、部署別の一覧表にします。偏り方によって、主な課題や解決策は次のように変わります。
▪中抜け型(中間層が少ない):若手育成の前倒しや中途採用の強化
▪逆ピラミッド型(40代後半以上が多い):次世代の採用・育成や、定年後再雇用者の処遇整理
あわせて、役職ごとに今いる人数と、中期経営計画などから見た数年後に必要な人数を並べてみましょう。その差が「これから育成・採用すべき人材」の目安となり、計画づくりの土台となります。
以上、人事制度の見直し前に確認したい3つの人事分析をご紹介しました。どのような制度をつくるかを考える前に、まずは自社の現状を数字で確かめておくことで、改定の方向性や優先順位を定めやすくなります。また、健康診断と同じく定期的に分析を続けることで、変化にも早めに気付けるようになります。まずは今年の数字をまとめるところから始めてみてはいかがでしょうか。
