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職種手当を考える際に押さえるべき2つの目的と1つの視点

「職種ごとの仕事の違いを給与に反映させ、社員のモチベーションにつなげたい」

「採用競争の激しい特定職種について、提示年収を引き上げて採用力を強化したい」

 

こうした理由から「職種手当」を設けている会社は少なくありません。営業手当、施工管理手当など名称はさまざまですが、いずれも「職種によって支払う額を変える」という点で共通しています。基本給とは別に設定できるため、職種間の賃金差をつけやすく、比較的導入ハードルが低い施策といえます。

 

しかし、職種手当が原因となって制度運用に悩む企業も少なくありません。その背景には、大きく2つの問題があります。

 

1つ目は、何のために支払っているのかがあいまいなまま導入・運用されていることから生じる問題です。例えば、「手当の額に社員が納得しない」「一度つけた手当が下げられない」といったケースです。支払う目的が説明できないために、金額の根拠も、増減の判断基準も示せなくなっている状態です。

 

2つ目は、人材の流動性(異動しやすさ/させやすさ)への影響を見落としたために生じる問題です。例えば「異動を打診すると手取りが減ることを理由に断られる」といったケースです。これは目的があいまいだから起きるのではなく、むしろ採用・定着といった目的で手当を厚くした結果、その副作用として流動性が下がる、ということです。

 

前者は、支払う目的を明確にすれば防ぎやすくなります。そこで本稿では職種手当の代表的な目的を2つ(市場競争力の強化/負荷やリスクの補てん)に分けて整理します。そのうえで、後者は、目的を決めたあとも持っておくべき「1つの視点」としてご紹介します。

 

<目的① 市場競争力の強化(採用・定着)>

ドライバーや施工管理職といったなり手が少ない職種や、AIエンジニアのように希少性が高い職種に対して手当を加算し、外部の労働市場に負けない賃金水準を確保するという目的です。

ここで比較検討の対象にするのは社内の他職種ではなく、外部の労働市場です。そのため金額の根拠は「市場でいくら出さないと採れないか/引き留められないか」に置くことになり、社内の公平感よりも外部相場が優先されます。

 

なお、入社時点の訴求力だけを特に強めたい場合は、月々の手当ではなく、入社一時金を活用する方法もあります。恒常的に支払い続ける手当と、入口で一度だけ効かせる一時金を使い分けることで、「誰に・いつまで支払うのか」が明確になり、制度も運用しやすくなります。

 

<目的② 負荷やリスクの補てん>

薬品を扱う研究職や、台風・災害時の緊急対応など身体的・精神的な負荷やリスクを負う職種に対して、その負荷やリスクを補てんするという目的です。

①が「市場との比較」であるのに対して、②は「社内での納得感」が重要になります。「隣の部署の人と比べて、この負荷やリスクでこの金額は妥当なのか」という視点で判断されるためです。

 

また、この目的では必ず境界の問題が生じます。例えば、「恒常的ではなく、一時的にその負荷やリスクを負う社員はどう扱うのか?」といった問題です。

今回は災害対応の応援として、当該部門以外の社員が一時的に現場に入るケースを考えてみましょう。このような一時的な対応まで恒常的な手当の対象にすると、制度の線引きが難しくなります。そのため、「恒常的な負荷は手当で補てんし、一時的な貢献はその期の評価(加点など)や一時金(賞与一部上乗せ)で処遇する」と切り分けるのが良いでしょう。

手当は恒常的な負荷やリスクへの補填、評価や一時金は一時的な貢献への処遇と整理することで、それぞれの役割が明確になります。

 

<持っておくべき視点 人材の流動性への影響>

ここまでの2つは、いずれも何のために支払っているのかという目的についてでした。

しかし、職種手当には目的を決めたあとに、設計上どうしても持っておかなければならない視点があります。それが人材の流動性への影響です。

手厚い手当は人をその職種に留める方向へ働きます。一方で、手当額が小さければ、異動に伴う心理的・経済的なハードルは低くなります。つまり手当の設計は、意図せずして異動のしやすさ(人材の流動性)に影響を与えているのです。

 

ここで、前の2つの目的と正面からぶつかります。

 

✓ ①採用・定着、負荷やリスクのために手当を厚くするほど、手取りが減るのを嫌って異動が止まる

✓ 職種ごとの金額差は、職種の序列として受け取られる可能性があり「手当の低い職種には行きたくない」というプライドの壁を生む

 

このように、目的を追って手当を厚くするほど、人材の流動性が下がります。だからこそ、職種手当は何のために支払っているのかだけでなく、人材の流動性への影響という視点も合わせて持っておくことが重要なのです。

 

まとめ

職種手当の失敗は、制度が複雑だから起きるわけではありません。その多くは、一つの手当にいくつもの目的が混ざり込み、何のために支払っているのかを説明できなくなることから生じます。そして目的を明確にしたあとも、手当を厚くするほど人が動かなくなるという人材の流動性への影響を、見落とさないようにすることが欠かせません。

職種手当について検討されている企業様にとってご参考になれば幸いです。